不動産会社へ家探しの相談に行き「とりあえず、住宅ローンの仮審査に申し込みませんか?」と言われ、戸惑う方が少なくない。「仮、とは?」「とりあえず、とは?」と不審に感じて当然だ。
しかし、家探しの前に仮審査(事前審査)を受けておくことは、順序としては合理的である。じつは、買いたい家を見つけてから仮審査に申し込むより、さまざまなメリットがあるのだ。
本稿では、住宅ローンの仮審査を勧められたときの対処法や、早めに審査してもらうことのメリットをご紹介する。メリットに魅力を感じた方は、積極的に仮審査を活用してほしい。
住宅ローンの仮審査(事前審査)を勧められたとき、どうすべきか
じつは、住宅ローンの審査は2段階方式になっている。まず、仮審査(事前審査)で「滞りなく返済できる融資額」を確認して、次に本審査で「本当に融資して大丈夫か」を徹底的に調査するのだ。
本審査は、不動産売買契約のあとでないと申し込めない。もしも本審査で非承認になると、また一から家探しをすることになり、売主や不動産会社などの関係者に多大な迷惑をかけてしまう。
だから、仮審査はとても重要な役割を果たす。では、いつ仮審査を受ければいいのだろうか?―― おすすめは、家探しの前だ。
先に住宅ローンの仮審査をすると得られるふたつのメリット
家探しの前に住宅ローンの仮審査を受けるのと、買いたい家を見つけてから仮審査を受けるのとでは、どちらがいいのだろうか?
先述のとおり、おすすめは「家探しの前」だ。家探しより先に仮審査を受けることは、いくつかの大きなメリットがある。代表的なものを、ふたつご紹介しよう。
メリット1:予算を決めやすくなる
家探しより先に仮審査を受けると、予算を決めやすくなる。
たとえば「この家に住みたい!」と思う物件が見つかってから仮審査に申し込んだとしよう。物件価格は、仮に5000万円とする。
もしも審査結果が非承認(貸せません)や減額承認(4000万円までなら貸せます)になると、物件探しからやり直しになる。不動産会社の担当者は、これを嫌がる。
一方、先に仮審査で承認を得ておくと、予算が確定する (4000万円なら借りられることが分かる)。その結果、最初からそれに合わせて物件探しができるので、振り出しに戻るリスクを回避できるのだ。
非承認や減額承認で、あなたの気力がなえることもない。やり直しがイヤな方や家探しの期限が決まっている方は、先に仮審査を済ませておくとよいだろう。
メリット2:ライバルに買い負けしにくくなる
「この家に住みたい!」と思う物件が見つかってから仮審査に申し込むと、審査しているあいだに他の人に買われてしまうことがある。
じつは、このケースにはまり「もっと早く仮審査をしておけばよかった……」とガッカリされる方が少なくない。
一方、先に仮審査で承認を得ておくと、住みたい物件が見つかったらすぐ売主に購入申込書を提出できる。よって、ライバルに買い負けるリスクを回避しやすくなるのだ。
不動産会社も、仮審査を受けていない人より仮審査に通っている人のほうが、物件を薦めやすい。なぜなら、成約になりやすいからだ。
言い換えると、仮審査で承認を得ていない方は対応の優先順位を下げられるかもしれない、ということだ。仮審査を後回しにする方は、そういうリスクがある、ということを理解しておく必要がある。
住宅ローン仮審査(事前審査)のデメリットは、個人情報の開示
では、仮審査を早めに受けるデメリットはないのだろうか?―― 大きなデメリットはないが、しいてあげるなら個人情報を開示しなくてはならないことだろう。
不動産会社の担当者に仮審査の申し込みを手伝ってもらう場合、お勤め先や年収等を知られることになる。よく知らない相手に大事な個人情報を開示するのは、気持ちのよいものではないだろう。
余談だが、住宅ローンの審査に申し込むと信用情報に履歴が残る。
信用情報とは、信用情報機関に記録されている「個人の信用力に関する情報」のことだ。ローンやクレジットカード、キャッシングなどの利用状況や、金融事故情報が記載されている。
金融機関は、住宅ローン審査の申し込みがあったら、必ず申込者の信用情報をチェックする。その際、信用情報に「開示請求」の履歴が残るのだ。
金融機関が信用調査をおこなう際、開示請求された回数を把握することになる。開示請求の回数が多いと、金融機関は「たくさんの金融機関で否決されている?」と用心するだろう。
そうなると、審査で非承認になるリスクが上がってしまう。痛くもない腹を探られないようにしたい。
信用情報について詳しく知りたい方には、こちらの記事もご覧いただきたい。
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仮審査を受ける回数は、半年のあいだに3回程度なら問題ないだろう。そのくらいなら、よくある水準だ。多くても、5回以内に収めておきたい。
「とりあえず、申し込みましょう」に承諾していい?
早めに仮審査を受けるメリットとデメリットをご紹介した。では、不動産会社の担当者に「とりあえず、住宅ローンの仮審査に申し込みませんか?」と言われたら、承諾してよいのだろうか?
先述のとおり、基本的には承諾していい。早めに仮審査で承認を得ておくことのメリットは、小さくない。予算を明確にしておけるし、買いたい物件が見つかったらすぐ購入申込書を出せる。
しかし、これからお世話になる担当者の人間性を知らないのに、おいそれと応じるのも問題がある。「この担当者を信頼してみよう」と覚悟できるまで、承諾してはいけない。
仮審査を勧めてくる担当者の人間性を観察しよう
不動産会社の担当者は、家探しの質を大きく左右する。人柄が大切であり、「とにかく早く買わせたい」「売買が成立すればサヨウナラ」と思っている担当者と家探しを進めてはいけない。
「とりあえず、仮審査に申し込みましょう」は、相手のデリカリーを測る目安になる。いきなりそんなことを言う担当者が「あなたが幸せになれる家」を見つけてくれるだろうか?
家探しや家づくりを任せたいのは、自分たち家族のことを一番に考えてくれる担当者だ。そんな担当者なら、仮審査のことをどう勧めてくるだろうか?
一足飛ばしに仮審査を勧めず、まず住宅ローン審査の要点を解説してくれる。そして、早めに仮審査で承認を得ておくメリットを説明してくれる。デメリットも、隠さずに話してくれる。
最後に、仮審査に申し込むかどうか、選択させてくれるのではないだろうか?
住宅ローンの仮審査を勧められたときの断り方
不動産会社の担当者に「信頼できない」とか「フィーリングが合わない」と感じたら、仮審査の勧めを断っても構わない。住宅ローンを返済するのはあなたなのだから、あなたが決めていい。
断る際は、率直に今のお気持ちを伝えるとよいだろう。たとえば、こんな感じだ。
- 「まだ、所得や勤務先などの個人情報を開示したくないので、先に物件を紹介してもらうことはできますか?」
- 「ある程度買いたい物件が定まってから、仮審査に申し込みたいです。そんな順序でも、いいですか?」
家探しをしている方の多くは、上述のような思いがある。それは不動産会社の担当者も理解しているので、上述のように言われても戸惑ったりしない。
ただし、上述のことを伝えると、露骨に対応の優先順位を下げられるかもしれない。それはある意味仕方ないことなので、割り切りが必要だろう。相手の出方を観察できたからよし、としよう。
一方、あなたに寄り添う形で家探しを手伝ってくれる不動産会社の担当者もいるだろう。そんな人を見つけたい。
そもそも、住宅ローンの仮審査(事前審査)とは
そもそも、住宅ローンの仮審査は、どういう役割を果たしているのだろうか?仮審査の目的や内容、本審査との違いを理解すれば、申し込むべきタイミングが分かるだろう。
仮審査の目的は、利用者の返済能力をチェックすること
先述のとおり、住宅ローンの審査は「仮審査 (事前審査)」と「本審査」の2段階方式になっている。2度の審査に合格しないと、利用できない。
「仮審査」は、本審査の前におこなわれる簡易的な審査の通称だ。誰でも、無料で申し込める (本審査は、不動産売買契約や建築工事請負契約を締結した人だけ申し込める)。
銀行側が仮審査をおこなう目的は、住宅ローン利用者の返済能力のチェックだ。一方、買主側の目的は住宅ローンの利用の可否確認と、融資上限額を確認して予算を明確にすることだ。
銀行の目的 |
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買主の目的 |
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銀行は、買い手と売り手の契約が締結されたあと(購入する不動産が確定したあと)でないと、融資を承認できない。しかし、それでは買い手と売り手が取引を円滑に進められない。
万が一、本審査で否決されると、家探しや契約のために費やした時間と労力がムダになってしまう。それでは困るので、本審査の前に簡易的な仮審査を実施して、この問題を解決しているのだ。
仮審査で承認は「本審査の承認」を約束するものではないが、一定の基準を満たしている証明になる。
なお、仮審査後に物件が変わっても問題ない。気になる物件を見つけたら、買う買わないは別にして、できるだけ早めに仮審査を受けておかれるとよいだろう。
ただし、新築と中古では担保評価が異なる。新築を購入予定の方は、新築物件で仮審査を。中古物件を購入予定の方は、中古物件で仮審査を受けておきたい。
仮審査と本審査の違いを4項目で比較
仮審査と本審査のおもな違いを、表にまとめてみよう。
審査 | 仮審査 | 本審査 |
---|---|---|
目的 | 滞りなく返済できそうか確認 | 本当に融資して大丈夫か、徹底的に調査 |
対象者 | 誰でも申し込みできる | 不動産売買契約や建築工事請負契約を結んだ人 |
審査速度 | スピーディーに回答 (即日~3営業日程度) | 1~3週間程度かけて慎重に審査 |
実施者 | おもに金融機関が審査 | おもに保証会社が審査 |
先述のとおり、本審査の目的は、本当に融資しても大丈夫か確認することだ。
本審査に申し込むには「不動産売買契約書」が要る。その他にも、仮審査時よりたくさんの書類を用意する必要がある。
審査の実施者も違う。仮審査は金融機関がおこなうが、本審査の実質的な審査は保証会社が「保障審査」の名目でおこなっている。
仮審査の必要書類とおもな審査項目
繰り返しになるが、住宅ローンの仮審査は利用者の返済能力や融資上限額をチェックするために実施する。よって、以下の書類が必要になる。
- ローン事前審査申込書
- 本人を確認できる書類
- 収入を確認できる書類
- 勤続年数を確認できる書類
- 物件概要がわかる書類
仮審査のおもな審査項目は、以下のとおりだ。
- 本人確認
- 今の年齢と完済時年齢(返済期間)
- お勤め先、勤続年数、所得額
- 住宅ローン以外の借入状況
- 返済負担率(返済比率)
- 与信(個人の信用度)
返済負担率とは、年収に対する年間総返済額(住宅ローン以外も含む)の割合のことだ。上限は、金融機関が独自に決めている。目安としては25~35%程度で、年収に応じて変わる。
なお、仮審査では物件の担保評価は、簡易的なチェックしかおこなわれない。オンライン申込の場合は、物件評価をおこなわない金融機関もある。
一方、本審査では、契約者の健康状態や物件の担保価値などもしっかり調査される。健康状態や物件の担保価値に問題があれば本審査で否決になるので、注意したい。
タイミングはいつが最適?仮審査のおすすめの手順
最後にもう一度、仮審査のタイミングについておさらいして終わりたい。
仮審査に適したタイミングは、家探しの前
住宅ローンの仮審査は、できるだけ早いタイミングで受けておくといい。あなたの希望に適合する物件を見つけたら、その物件で住宅ローンの仮審査を受けてみよう。
なお、物件価格の目安は、単独名義で住宅ローンを借りる予定の方なら個人年収の6倍まで。ペアローンをご検討中の方なら、世帯年収の5倍を上限にすると比較的安心と言える。
仮審査で承認されたあと、金額の増額や「新築・中古」の変更がなければ、物件を変更してもいい。明確になった予算を基準にして、本当に買いたい物件を探そう。
住宅ローン審査の流れを、一般的な手順とおすすめの手順で比較
住宅ローンの仮審査と本審査のタイミングをご紹介しよう。分譲住宅や中古住宅を買う場合、一般的な方が思い描く流れは以下の順番だろう。
- 買いたい物件を発見
- 住宅ローンの仮審査(事前審査)
- 売主に購入申込書を提出
- 売買契約を締結
- 住宅ローンの本審査
- 物件代金の清算
- 引き渡し・所有権移転登記
この順番なら、買主の心理的負担が少ない。しかし、この流れでは仮審査で否決あるいは減額承認されると、物件探しからやり直しになる。
よって、おすすめの流れは以下の順番になる。
- 住宅ローンの仮審査(事前審査)
- 買いたい物件を発見
- 売主に購入申込書を提出
- 売買契約を締結
- 住宅ローンの本審査
- 物件代金の清算
- 引き渡し・所有権移転登記
ひとつめとふたつめの手順は、ほとんど差がない。(1)と(2)が入れ替わっただけだ。
しかし、この順番なら最初から予算が明確になる。購入申込書も素早く提出できるので、物件探しから始めた(予算が明確になっていない)ライバルに差を付けられるだろう。
もし、信頼できそうな不動産会社の担当者に巡り会えたなら、あなたもできるだけ早いタイミングで仮審査を受けてみてはどうだろうか?
まとめ:住宅ローンの仮審査(事前審査)を勧められたときの対処法
さいごに、本稿のおさらいをしておこう。
住宅ローンの仮審査を勧められたときの対処法は?
基本的に承諾していい。仮審査を家探しの前に受けておくメリットは、小さくない。ただし、仮審査を勧めてきた相手のことが信頼できないなら、やめておこう。詳しくはこちらをご覧いただきたい。
住宅ローンの仮審査のタイミングは、いつがいい?
おすすめは、家探しの前だ。最初に仮審査を済ませると、融資してもらえる額が分かり、予算が明確になる。よい物件を見つけたらすぐに動けるのも利点だ。詳しくはこちらをご覧いただきたい。