ボーナスが支給されると、繰り上げ返済を検討する方が増える。しかし、いざ実行する段階になって「本当にやっていい?メリットある?」と迷う方が少なくない。あなたは、どうだろうか?
実際に繰り上げ返済を経験した人々の声を聞くと、具体的なメリットが見えてくる。返済総額の削減や返済期間の短縮、そして得られる安心感など、大きな恩恵を受けておられるようだ。
本稿では、体験者の声とともに繰り上げ返済のメリットと注意点をご紹介する。繰り上げ返済には利点が多いが、リスクもある。本稿を参考に、あなたにもメリットがありそうかご確認いただきたい。
住宅ローンを繰り上げ返済してよかった?実行した人の口コミ
さっそく、繰り上げ返済を実行した方の口コミをご紹介しよう。
金利負担が減少した事例
住宅ローン控除あるのに繰り上げ返済するのもったいないと思っていたけど、計算したら繰り上げ返済するほうがお得だな。ガンガン返済するのが正解っぽいな。
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新NISAもいいけれど、もし住宅ローンがあるならば、繰り上げ返済がおすすめ。返済プランを見て利息の多さにびくりしたので、定年退職前に完済できてよかったと思う。
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住宅ローン完済して分かったこと。給料がほぼ自由に使える、会社辞めても何とかなる感が向上、入金力が一気に増える、リスク高めの投資もできる、安心感が半端ない。
繰り上げ返済は、利子の削減や保証料の返金などのメリットがある。無理にリスク資産に投資するより繰り上げ返済を検討してみるとよい。確実に負債が減り、QOLも向上する。
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返済期間を短縮できた事例
子どもたちが小さいうちに繰り上げ返済を頑張っておいて本当によかったと思う。子どもたちの学費は、なんとかなりそう。住宅ローンと大学の学費が重なったら、今の給料ではカツカツだった。
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今後、住宅ローンの金利が跳ね上がるよね?今年で完済しておいてよかった。繰り上げ返済、大事よ。
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繰り上げ返済をするぐらいなら投資に回したほうがいいと聞きますが、私は繰り上げ返済をしました。ローンで支払っていた分を、今は投資に回しています。
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成功談から分かる「繰り上げ返済のメリット」とは
「繰り上げ返済をしてよかった」と感じている方の体験談を拝見すると、繰り上げ返済のメリットが見えてくる。どうやら、以下のメリットを感じている方が多いようだ。
- 利息の負担を軽減できる
- 金利上昇リスクを抑えられる
- 安心感やQOLが向上する
順番に、もう少し詳しく解説しよう。
利息の負担を軽減できる
繰り上げ返済をおこなうと、以下の《二重の削減効果》が働く。
- 直接的に元金が減る(返済残高が減る)
- 間接的に利息も減る(返済総額が減る)
「元金が減る」ことの恩恵は、以下のふたつの方法から選んで享受できる。
- 返済期間を短縮する方法(期間短縮型)
- 毎月の返済額を減額する方法(返済額軽減型)
2つの方法の違いは、のちほど詳述する。ここでは、繰り上げ返済の効果の一例を見てみよう。
借入の条件は、以下のとおりとする。
- 借入額:3000万円
- 金利 (固定):1.3%
- 返済期間:35年
- 返済方法:元利均等返済
- ボーナス返済:なし
この条件で、10年目に「資金300万円」を「期間短縮型」で繰り上げ返済すると、どうなるだろうか?―― なんと、返済総額が《1,097,370円》減る。返済期間も《3年10か月》短縮される。
現在、住宅ローンは非常に低金利であり、昔に比べて繰り上げ返済の効果が薄れている。だから、以下のような意見もある。
- 繰り上げ返済より、資金を投資に回そう
- 繰り上げ返済より、住宅ローン減税を優先しよう
しかし、投資が《繰り上げ返済以上の効果》を生むかどうかは不確実だ。投資が苦手、あるいは得意ではないと感じているなら、繰り上げ返済で確実に利息を軽減するほうが気楽だろう。
また、人によっては、住宅ローン減税より繰り上げ返済を優先したほうがよい結果につながる方もいる。今後の控除額と、繰り上げ返済による利息の軽減額を比較してみるといい。
個々の状況に応じて実行の可否を判断することが重要だが、基本的に、繰り上げ返済は家計に大きな恩恵をもたらす。
金利上昇リスクを抑えられる
繰り上げ返済をおこなうと、金利上昇リスクを抑えられる。とりわけ、変動金利型の住宅ローンを利用している方には、この効果がより顕著に現われるだろう。
変動金利型のローンは、金利が上昇すると返済額が増える。元金が多いほど上昇額が大きくなるため、返済初期ほど金利上昇のリスクが大きい。
繰り上げ返済によって元金を減らせば、金利上昇時の月々の返済額の増加を抑えられる。この効果も、元金の多い「返済初期」ほど大きくなる。
固定金利型で借りている方でも、期間選択型を選んでいるなら繰り上げ返済が役に立つ。繰り上げ返済によって、固定期間終了後の金利上昇リスクを軽減できる。
繰り上げ返済は、将来の金利上昇に備える有効な手段だ。借入残高を減らすことで、金利変動の影響を減らし、家計の安定性を高められる。
安心感やQOLが向上する
繰り上げ返済を実行した多くの方が、金銭面だけでなく精神面でも大きなメリットを感じている。借入残高が減ることで得られる安心感は、日々の生活の質(QOL)を向上させる。
QOL向上の例をあげてみよう。
- 将来への不安が減り、前向きに生活できる
- 充実したセカンドライフを送るチャンスが広がる
- 家族間のコミュニケーションが円滑になる
繰り上げ返済により「借入残高が減ったことで精神的な負担が軽くなった」と感じている方が少なくない。将来への不安が減り、前向きに生活できるようになるようだ。
また、住宅ローンの返済期間が短くなると、定年後のライフプランを設計しやすくなる。老後の資金準備期間にも余裕ができるので、寄り安定した将来設計が可能になる。
返済の負担が減れば、家族旅行や子どもの教育にも資金を回しやすくなるだろう。このような金銭的な余裕は、家族関係にもよい影響を与える可能性が高い。
知っておきたい、繰り上げ返済のデメリットやリスク
住宅ローンの繰り上げ返済にはご紹介したようなメリットがあり、多くの人にとって魅力的な選択肢である。しかし、すべての人に適しているわけではない。
なぜなら、繰り上げ返済にはデメリットもあるからだ。代表的なものをふたつご紹介しよう。
- 手元資金が減る
- 団体信用生命保険の保険金が減る
それぞれ、詳しく解説しよう。
手元資金が減る
繰り上げ返済をする際、数百万円を返済にあてる方が少なくない。しかし、手元流動性がなくなるほどの繰り上げ返済は、家計にとって危険である。
手元流動性とは、すぐに使える資産のことで、《緊急時の予備費》として機能する。たとえば、現金や普通預金、市場で売りやすい有価証券などがこれに該当する。
では、どの程度の手元流動性を確保しておけばいいのだろうか?―― あくまで人によるが、目安は《必要な生活費の3~12か月分》だ。
手元流動性は、年齢を考慮する必要があるだろう。たとえば突然、失業したり病気になったりしたとき、年齢が若い方ほど立て直しの時間が短くて済む。
手元流動性を維持したまま利息の負担を減らしたいときは、借り換えが有効だ。あわせて、金利引き下げ交渉もおこなうとよい。詳しくは、後述する。
団体信用生命保険(団信)の保険金が減る
民間の住宅ローンは、団信の加入が必須になっている。この団信は、借り手にとって重要な安全網の役割を果たす。ところが、繰り上げ返済を実行すると、この団信の保険金が減ってしまう。
団体信用生命保険とは
繰り上げ返済を実行すると、団信の保険金も同時に減少する。
たとえば、繰り上げ返済後に不幸にも契約者が亡くなった場合、残された家族は「繰り上げ返済をした意味がなかった」と感じるかもしれない。
がんなどで余命宣告を受けた場合を想像してみて欲しい。繰り上げ返済をせずに手元資金を残しておけば、残された時間をより豊かに過ごすことができるかもしれない。
上述の例は「もしも」の話だ。しかし、人生には予期せぬ出来事が起こり得える。それを頭に入れておきたい。
繰り上げ返済のリスクについては、以下の記事で解説している。詳しく知りたい方は、あわせてご覧いただきたい。
なぜ住宅ローンは繰り上げ返済をしないほうがいいのか?デメリットとは
「借りたお金は、なるべく早く返したい」は、誰もが持つ倫理観だろう。住宅ローンを借りている方も、頭の片隅にそのような気持ち ...
繰り上げ返済の効果を最大化したい人必見!覚えておきたい基礎知識
繰り上げ返済を実行する場合、どうすればその効果を最大化できるのだろうか?―― 覚えておきたい基礎知識をご紹介しよう。
期間短縮型と返済額軽減型の仕組み
先述のとおり、繰り上げ返済を実行すると住宅ローンの元金を減らすことができる。この恩恵は、以下のふたつの方法から選んで受けられる。
- 返済期間を短縮する方法(期間短縮型)
- 毎月の返済額を減額する方法(返済額軽減型)
それぞれの特徴をご紹介しよう。
期間短縮型 | 元金が減った分、毎月の返済額はそのままで、返済期間を短くする方法。利息の軽減効果は「期間短縮型」のほうが高い。 |
---|---|
返済額軽減型 | 元金が減った分、返済期間はそのままで、毎月の返済額を減らす方法。団信の補償期間を維持できる。 |
上述のふたつの返済方法は、利息の軽減効果が異なる。比較してみよう。
条件は以下のとおりだ。
- 借入額:3000万円
- 金利 (固定):1.3%
- 返済期間:35年
- 返済方法:元利均等返済
- ボーナス返済:なし
この条件で、10年目に「資金300万円」を繰り上げ返済に回した場合の節約効果は以下のようになる。
繰り上げ返済 | 期間短縮型 | 返済額軽減型 |
---|---|---|
返済額/月 | ±0円 | -11,367円 |
返済総額 | -1,097,370円 | -535,347円 |
返済期間 | -3年10か月 | ±0年 |
上の表のような《節約効果の差》が出る理由は、利息が「借入額、返済期間、金利」の3条件で決まるからだ。
期間短縮型は借入額と返済期間が減るので、利息の軽減効果が大きい。一方、返済額軽減型は借入額しか減らないので、利息の軽減効果が小さくなる。
利息の負担を減らしたいのであれば、期間短縮型を選ぶのが正解だ。ただし、返済額軽減型には「団信の補償期間を維持できる」というメリットがあるので、価値観に合わせて選びたい。
タイミングによる効果の違い
繰り上げ返済は、実行するタイミングによって得られる効果が大きく異なる。返済の初期ほど、利息の軽減効果が大きくなるのだ。
一方、ローンの残り期間が短い場合は効果が薄くなる。相対的に、繰り上げ返済に適していないと言えるだろう。同じ金額を繰り上げ返済にあてるなら、少しでも早いほうがいい。
一例を見てみよう。条件は、以下のとおりだ。
- 借入額:3000万円
- 金利 (固定):1.3%
- 返済期間:35年
- 返済方法:元利均等返済
- ボーナス返済:なし
- 繰り上げ返済資金:100万円
- タイプ:期間短縮型
この条件で、繰り上げ返済を「10年目」または「20年目」または「30年目」に実行した場合の節約効果を比較してみよう。
繰り上げ返済 | 10年目 | 20年目 | 30年目 |
---|---|---|---|
返済総額 | -374,174円 | -209,876円 | -73,059円 |
返済期間 | -1年3か月 | -1年1か月 | -1年0か月 |
表をご覧いただくと、同額の繰り上げ返済でも、あとになればなるほど効果が薄くなるのが分かるだろう。繰り上げ返済をするなら、早いほうがお得だ。
シミュレーション方法
繰り上げ返済の効果は、簡単にシミュレーションできる。繰り上げ返済を検討し始めたら、一度シミュレーションしてみるとよいだろう。
繰り上げ返済のシミュレーションは、金融機関等が公開しているシミュレーターを使うとよい。一例をあげておこう。
シミュレーションする際は、返済額やタイミングを変えると利息の節約効果がどう変化するか確認するとよいだろう。
マイナス金利政策解除と繰り上げ返済の関係とは
日銀が、2024年3月に開催した金融政策決定会合で「マイナス金利政策」を解除した。この影響は、繰り上げ返済にも及ぶのだろうか?
現在の動向と、今後の影響について考察してみよう。
マイナス金利政策解除後の市場の動向
日銀がマイナス金利政策を解除したことで、住宅ローンの変動金利の上昇リスクが高まった。
現在のところ、変動金利はほぼ変化していない。しかし、油断できない状況であり、住宅ローンを返済している方のあいだで「今後、金利はどうなるのだろう?」と不安が広がっている。
一方、2022年12月に、日銀はイールドカーブ・コントロールによる長期金利の上昇容認範囲を引き上げている。そのあと、35年固定金利は上昇して高止まりしている。
現在、変動金利は据え置かれ、固定金利は上昇している。その結果、変動と固定の金利は3~4倍の差、1.5%程度の開きが生じている。
これだけ差があると、固定金利を選ぶ方は少なくなる。なぜなら、毎月の返済額に許容しがたい大きな差がついてしまうからだ。元金の減り方に着目すると、なおさら固定金利は選びづらい。
では、これから金利が上昇局面に入るかもしれない状況で、今後もしばらく変動金利型が主力商品として選ばれ続けるとしたら、繰り上げ返済はどのように計画すればいいだろうか?
マイナス金利解除が繰り上げ返済の判断にどう影響するのか
金利が上昇局面を迎える可能性が高まったのであれば、繰り上げ返済で金利上昇リスクを抑えるのがセオリーだろう。とりわけ、返済初期の方ほど、繰り上げ返済が有効に働く。
一方、昨今では金融機関同士の顧客獲得競争が激しさを増している。よって、主力である変動金利型住宅ローンの金利には、競争による強い押し下げ圧力が働いている。
日銀も「当面、緩和的な金融環境が継続すると考えています」と発表していることもあり、金融機関が急ピッチで変動金利を上げることは想像しにくいのではないだろうか。
ここまでの情報から考察するならば、繰り上げ返済で金利上昇リスクを抑えたほうが安心ではあるが、急いで手を打たなければならない状況ではなさそうだ。
《繰り上げ返済は、早いほうが利息を軽減できる》という事実は考慮する必要があるが、先に手元流動性の確保を意識しておきたい。
急ぐあまり、手元資金を繰り上げ返済に充てすぎるのは危険だ。3~12か月分くらいの生活費や緊急時の予備費をしっかりとためてから、繰り上げ返済を実行してもよいのではないだろうか。
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繰り上げ返済以外に、手元資金を残したまま返済の負担を軽減する方法
繰り返しになるが、住宅ローンの繰り上げ返済は、多くの人にとって魅力的な選択肢だ。しかし、すべての人に適しているわけではない。
収入が安定しない方や将来に大きな出費が予想される方は、手元の資金を残しておきたい。では、繰り上げ返済以外に、手元資金を残したまま返済の負担を軽減する方法はないのだろうか?
今の金融機関から金利の低い金融機関に借り換えると、月々の返済額や返済総額を減額できる。なぜなら、借り換えによって金利が下がると利息を軽減できるからだ。
ただし、借り換えには数十万円、あるいはそれ以上のコストがかかる。条件しだいでは借り換えることで損してしまうケースもあるので、シミュレーションが必須だ。
シミュレーションは、モゲチェック等のシミュレーターが便利だ。借り換えによる節約額だけでなく、あなたにおすすめの金融機関もリストアップしてくれる。
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まとめ:繰り上げ返済をしてよかった、と言えるようにしよう
さいごに、本稿のおさらいをしておこう。
繰り上げ返済のメリットは?
繰り上げ返済には、さまざまなメリットがある。たとえば、利息負担や金利上昇リスクの軽減、返済期間の短縮などだ。安心からQOLが上がる方もいる。詳しくはこちらをご覧いただきたい。
繰り上げ返済の効果を大きくする方法は?
利息の負担を最大限に減らしたいのであれば、期間短縮型で、なるべく早く繰り上げ返済をするとよい。ただし、団信や手元流動性なども考慮したい。詳しくはこちらをご覧いただきたい。