マイホームを手に入れる際、とても重要な決定事項のひとつに「住宅ローン」がある。「不動産会社やハウスメーカーが紹介するローンを選んでいいのか?」と悩む方が少なくない。
もちろん、住宅ローンは自分で探すこともできる。そのほうが選択肢が増え、うまくいけば不動産会社等の提携ローンより利息を減らせるかもしれない。しかし、注意点がある。
本稿では、住宅ローンの事前審査(仮審査)を自分でやる方法や、自分でやる場合の注意点をご紹介する。「住宅ローンの選択肢を増やしたい」とお考えの方のヒントになれば幸いだ。
体験談:住宅ローンの事前審査(仮審査)を自分でやってみた
まずは、私の体験談からご紹介しよう。少し古い体験談なので、記憶が曖昧になっている部分もあるが、ご容赦いただきたい。
私は、中古マンションを買ってリフォームを実施している。その際、不動産仲介会社に紹介してもらった金融機関と、自分と関わりがあった金融機関の両方に住宅ローン審査の申し込みをしている。
なぜ、わざわざ自分で融資を引っ張ろうとしたのか。そして、どんな問題に直面して、どう感じたのか。簡単に書いておこう。
なぜ、自分でやってみようと思ったのか
なぜ、自分でやってみようと思ったのか?―― 答えは単純で、当時は建築会社に勤めていたので、住宅ローンに関する見聞を広げるためにやってみたかったのだ。
また、計画が「中古マンション購入+フルリノベ」だったから、というのもある。そもそも、新築マンションや戸建ての大規模分譲地で用意されているような「提携ローン」がなかったのだ。
提携ローンとは
私は、地銀1行と信用金庫2行の、合計3行に申し込んだ。信用金庫1行は、不動産会社の紹介だ。残りの信用金庫と地銀は、務めていた建築会社と取引があったので選んだ。
とりわけ地銀の担当者さんとは親しい仲で、よく住宅ローンのことを教わっていた。
住宅ローン審査で直面した課題をどう解決したか
自分で住宅ローンの事前審査に申し込んでみて、どうだったか?
とにかく面倒に感じた記憶が残っている。妻が妊娠していたので、ほぼワンオペで乗り切るしかなかったのがつらかった。
書類の準備や記入に時間を取られた。年収だけでなく、カーローン等の借入金も漏れなく把握しておく必要があった。平日に時間を取って、何度か店頭窓口まで行った記憶もある。
当時は、ネット申し込みや住宅ローンの一括申し込みサービスがまだ一般的ではなかった。そのへんを活用すれば、今ならもっとラクにできるかもしれない。
事前審査の結果は、銀行が「減額承認」となり、希望額に届かなかった。信用金庫は、希望額でOKが出た。おそらく、不動産会社はこうなることを予想して、私に信用金庫を紹介したのだろう。
このような差が出たのは、審査金利が違ったからだ。地銀の審査金利が、信用金庫の審査金利より高かったと考えられる。3行同時に進めておいてよかったと感じた。
一方、金利は信用金庫が若干高めだったので「地銀に合わせて欲しい」と交渉してみた。結局、自分で申し込んだ信用金庫が金利を合わせてくれたので、そこで本審査を進めることにした。
自分でやってみた感想と、正直な気持ち
自分で住宅ローンの事前審査に申し込んでみて、とても勉強になったと感じる。必要書類や申し込みの流れについて、実体験をへて理解できた。
それにしても、書類をそろえたり記入したりするのが面倒だったので、時間がない方には手放しでおすすめできない。不動産会社にフォローしてもらうほうが、よいだろう。
結局、運よくトラブルなく進んだので「面倒ではあったが、何とかなったな」という感じだ。属性等に懸念がある方も、不動産会社の担当者にアドバイスをもらいながら進めるほうが安心だろう。
一方、昨今ではネット銀行の金利がとても低い。提携ローンや紹介ローンに申し込みつつ、自分でネット銀行の審査に申し込むのも悪くないのではないだろうか。
事前審査を自分でやろうと考えている人へコツをアドバイス
自分で住宅ローンの申し込みができそうな方は、挑戦してみるといい。金融機関の選択肢が増えるし、住宅ローンに対する意識が高まるだろう。その体験は、返済中も生きてくる。
しかし、いくつか注意点もある。ご紹介しておこう。
提携ローンがあるなら、併用しよう
新築マンションや大規模分譲住宅を購入される場合は、提携ローンが用意されているだろう。もしも提携ローンがあれば、そちらも併用するほうがいい。
理由は、以下のとおりだ。
- 煩わしい手続きが減る
- 金利を優遇してもらえる場合がある
- 住所変更登記と、その費用を減らせる
- 住宅ローン特約を付帯できる
提携ローンは、手続きが簡略化されているケースが多い。また、手数料や金利が優遇されることもある。
とりわけ「住宅ローン特約」を付帯できるのが大きい。
住宅ローン特約とは
契約条項に住宅ローン特約の内容を定める義務があるのは、不動産会社があっせんする提携ローンだけだ。
買主が自分で探してきた住宅ローンを利用する場合は、ローン特約を付けることを希望して、売主やと合意する必要がある。
しかし、住宅ローン特約は売主に不利を強いる特約なので、断られるケースが少なくない。
提携ローンが無い場合は、不動産会社等に紹介してもらおう
中古住宅を購入されたり工務店で注文住宅建てたりされる場合は、提携ローンが用意されているケースはまれだろう。
そんなときは、自分で住宅ローンを探すだけでなく、不動産会社や工務店の担当者にも紹介してもらおう。実務経験が豊富な担当者なら、あなたにぴったりの住宅ローンを紹介してくれる。
書類を提出したり、スケジュールを管理したりしてくれる担当者も少なくない。なんだかんだとフォローしてくれるだけでなく、審査で承認を取り付けるのもうまい。
ただし、まれに自分の都合のよい住宅ローンを紹介してくる担当者もいるので、ご注意いただきたい (詳しくは後述)。
住宅ローンの事前審査は、自分でやるより不動産会社経由のほうがいい?
繰り返しになるが、自分で住宅ローンの申し込みができそうな方は、挑戦してみるといい。いろいろと、メリットがある。一方、デメリットもある。
だから、自分で住宅ローンを探しながら、提携ローンや不動産会社等の紹介ローンも併用していくとよいだろう。メリットを享受しつつ、デメリットに対してセーフティーネットを張れる。
提携ローンまたは紹介ローンに自分で探してきた住宅ローンを加え、合計3行程度に審査の申し込みをしてみてはどうだろうか?
自分で事前審査に申し込むメリット
自分で住宅ローンの事前審査に申し込むメリットとデメリットをご紹介しよう。住宅ローン選びの参考にしていただきたい。
まずは、メリットからご説明する。
自分のペースで、気に入った住宅ローンを選べる
じゅうぶんで住宅ローンを探し審査に申し込む場合は、自分のペースで進められる。一方、提携ローンや紹介ローンは、あれよあれよという間に進められてしまう。
マイペースでやりたい方にとって、これは少しツライ。まだよく知らない相手に自分の個人情報を渡すのも、気分のよいものではないだろう。
また、提携ローンや紹介ローンには、以下の懸念もある。
提携ローン | 選択肢が少ない。「他にもっと条件のよいローンがあるのでは?」と感じてしまう。 |
---|---|
紹介ローン | まれに、買主の利益より、自社の都合を優先したローンを紹介される場合がある。 |
住宅ローンの審査は、金利が低い金融機関ほど厳しくなる傾向がある。言い換えると、審査が甘めの住宅ローンほど、金利が高い傾向があるのだ。
契約者の立場から見ると、金利は少しでも低い方がいい。しかし、自社の利益を優先する不動産会社やハウスメーカーにしてみれば、審査が甘い(金利が高い)住宅ローンのほうが都合がいい。
また、無理やり予算を上げさせるために、固定金利を紹介されるケースもある。じつは、変動金利より固定金利のほうが融資上限額を上げやすい。なぜなら、審査金利が違うからだ。
ちなみに、株式会社MFSの調査(複数回答可)によると、住宅ローン選びで後悔している方の「後悔の原因」は以下のようになっている。
- もっと金利の低い金融機関を選べばよかった(42.7%)
- 違う金利タイプを選べばよかった(29.1%)
- 不動産会社に言われるがままに選んでしまった(22.5%)
- 団体信用生命保険をもっと慎重に選べばよかった(19.7%)
- 返済期間をもっと短くすればよかった(13.6%)
- ボーナス払いを選ばなければよかった(11.7%)
- 返済期間をもっと延ばせばよかった(8.9%)
自分で探してきた住宅ローンと提携ローンや紹介ローンを併用して比較検討すれば、上述の「後悔」の多くは避けられるのではないだろうか?
個人情報を不動産会社に渡さなくて済む
提携ローンや紹介ローンを利用する場合は、収入等の個人情報を不動産会社やハウスメーカーに知られてしまう。まだよく知らない相手に個人情報を渡すのは、気持ちのよいものではない。
一方、自分で住宅ローンに申し込むなら、そのようなことは起こらない。ただし、個人情報を開示することで、不動産会社やハウスメーカーに信用してもらえる側面もある。
不動産の売買も仲介も、お互いに信頼できるかどうかがものを言う。不動産会社やハウスメーカーの立場から見ると、提携ローンや紹介ローンを使ってくれる顧客を優先したくなる点は留意が必要だ。
自分で事前審査に申し込むデメリット(注意点)
つづいて、デメリットをご紹介しよう。
自分にピッタリの住宅ローンを探すのが難しい
住宅ローンは、個人が頻繁に利用するものではない。みんな知識や経験がほぼない状態で住宅ローン選びをおこなうので、自分にぴったりのものを自分で探すのが難しい。
一方、不動産会社等にフォローしてもらえば、2段階くらい難度を下げられる。昨今、インターネットを使えば簡単に情報をキャッチできるようになったとは言え、いまだに人づての情報は有力だ。
たとえば下の調査では、住宅ローンを利用する上で役に立った情報源として、インターネットより住宅販売事業者をあげている方が多い。コロナ禍の2020年11月に実施されたにも関わらず、である。
このような結果になった理由は、住宅ローン選びは個人性が高いため、インターネット上にある情報が自分にうまく当てはまらなかったからではないだろうか?
他方、不動産会社等を経由して住宅ローンに申し込む場合は、担当者があなたに合った住宅ローン審査の攻略法を教えてくれる。
ちなみに、住宅ローンの審査に申し込むと金融機関は必ず信用情報機関に個人信用情報の照会をかける。だから、もしも審査が否決され続けると、照会の履歴だけが増えていくことになる。
照会の履歴は、たまればたまるほど不利になり得る。なぜなら、新しく審査申込をした金融機関に「審査に落ち続けている?危ない人?」と勘ぐられてしまうからだ。
年収や勤続年数などに懸念がある方は、不動産会社等にフォローしてもらうほうがいいだろう。すべて自分で選んだ金融機関にせず、提携ローンや不動産会社等の紹介ローンを混ぜよう。
情報収集から申し込みまで、すべて自分でやる必要がある
住宅ローンの申し込みには専門的な知識が必要で、一般の方にはハードルが高いだろう。すべて自分でやるなら、以下について独学しておかないとベストな選択をおこなうのが難しくなる。
- 住宅ローンの仕組み
- 変動金利と固定金利の違い
- 団体信用生命保険の特徴
- 各金融機関の審査基準
金利交渉や住宅ローン特約の付帯交渉も、自分でやる必要がある。独学や交渉に抵抗を感じる方は、提携ローンや紹介ローンを使うほうがいいだろう。
住宅ローンの事前審査(仮審査)を自分でやる流れ
つづいて、住宅ローンの事前審査(仮審査)を自分でやる流れをご紹介しよう。自分でやってみたい方は、参考にしていただきたい。
ステップ1:希望する借入額を決める
まずは、希望する借入額を決めよう。目安は、35年ローン年収の6倍前後だ (35年ローンの場合)。それくらいの借入額なら、比較的安全な借入額と言えるだろう。
先述のとおり、変動金利型住宅ローンの審査では、金利上昇リスクを考慮して厳しめの審査金利(3~4%)で融資額を計算する。その結果が、年収の6倍前後になるのだ。
一方、固定金利型住宅ローンの審査では、実行金利並みの低い金利で審査される。仮に2%で計算すると、こちらの融資上限額は年収の6~9倍程度になるだろう。
ちなみに、事前審査の目的は、自分の経済的状況で希望の借入額の審査が通るのか通らないのかチェックすることだ。本審査の際、以下の条件に変更があっても構わない。
- 融資額(減額)
- 購入する物件
- ハウスメーカー
ただし「中古 ⇔ 新築」の変更をおこなう場合は、再審査が必要になる。中古と新築では、担保の評価が大きく異なるからだ。
ステップ2:必要書類を準備する
事前審査の主な必要書類は、以下のとおりだ (金融機関によって異なる)。
書類 | 備考 |
---|---|
ローン事前審査申込書 | 金融機関でもらう |
本人を確認できる書類 | 運転免許証など |
収入を確認できる書類 |
|
勤続年数を確認できる書類 | 健康保険証など |
物件概要がわかる書類 |
|
先述のとおり、物件は(再審査の必要がない範囲であれば)あとで変更しても構わない。年収の6~7倍くらいを目安にインターネット等で探して、仮で選ぼう。
ステップ3:事前審査に申し込む
書類がそろったら、事前審査に申し込もう。自分でやる場合は、以下の申し込み方法がある。
- 金融機関の店頭窓口で申し込む
- 融機関のホームページから申し込む
- 住宅ローンの一括申し込みサービスから申し込む
昨今の事前審査は、大手を中心に店頭受付からインターネット受付へと移行が進んでいる。まずは、ホームページから申し込めないか確認してみるといいだろう。
住宅ローンの一括申し込みサービスも、利用者が増えてきた。たとえば今、勢いのあるモゲチェックはすでに利用者が20万人を突破している。
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モゲチェックは、申込者の属性や金利、団信を考慮してぴったりの住宅ローンを提案してくれる。独自に開発したAIにより、審査の通過率を算出してくれるので便利だ。
疑問点や不安なことは、住宅ローンの知識が豊富なアドバイザーに相談できる。自分で融資を取り付ける場合、頼りになるだろう。
提携ローンや紹介ローンと併用するのも、おすすめだ。セカンドオピニオンとして活用できる。無料で利用できるので、ご興味がある方は試してみてはいかがだろうか?
自分でやる前に理解しておきたい!事前審査に関するよくある疑問 (FAQ)
最後に、事前審査に関するよくある疑問をご紹介しよう。
FAQ1:物件未定でも審査してもらえる?
事前審査は、物件が未定でも審査可能だ。物件の瑕疵や担保価値は、本審査で詳細に調査される。事前審査では融資額が重要視され、金融機関はその金額を貸しても大丈夫かチェックする。
事前審査では、予算内で買える「何となく気になる物件」を使って審査に申し込めばいい。再審査が必要ない範囲であれば、本審査の際に物件が変わってもいい。
インターネット申込では、物件所在地欄に「未定」と書いても審査してくれる金融機関がある。そのような金融機関なら、仮物件を用意する必要もない。
FAQ2:事前審査をおこなうタイミングは?
事前審査は、できるだけ早めに申し込むほうがいい。おすすめは、本格的に家探しを始める前だ。
事前審査を受ければ、自分が借りられる金額の上限を把握できる。融資の上限額が分かれば、予算が明確になる。予算が明確になれば、具体的に家探しができる。
詳しくは、こちらの記事をご覧いただきたい。
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FAQ3:複数の金融機関に申し込んでもいい?
住宅ローンの審査は、否決される可能性も考慮して、複数の金融機関に申し込むことをおすすめする。とは言え、申し込みは3行程度に留めておくほうがよい。
金融機関が信用情報登録機関に個人信用情報の照会をおこなうと、その履歴が残る。あまりに多くの履歴が残っていると、それを金融機関がネガティブに捉える可能性がある。
詳しくは、こちらの記事をご覧いただきたい。
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FAQ4:事前審査で落ちる人の特徴は?
住宅ローン審査の基準は、金融機関ごとに異なる。一般的には、以下の条件に当てはまる方は、審査で不利になりやすい。
- 年齢が高い
- 年収が低い
- 勤続年数が短い
- 年収に対して年間の返済額が多い
- 経営者、個人事業主、非正規雇用者
- 物件価格に対して希望借入額が多い
また、返済能力を疑われるとアウトだ。たとえば、過去に長期延滞や債務整理などの金融事故を起こしている方は、ほぼ審査で非承認になる。
割賦販売やクレジットカードの支払いで度々遅延がある方も、危険だ。現在、多くの借入をおこなっている方は、融資上限額の減額、あるいは審査で非承認になる。
ちなみに、スマホ本体代金を分割払いにしていて、うっかり遅延してしまう方が少なくない。足元をすくわれるので、ご注意いただきたい。
FAQ5:事前審査に落ちた場合の対処方法は?
金融機関は、否決の理由を教えてくれない。自分で推測して、改善後に再チャレンジする必要がある。
しかし、一般の方が原因を特定するのは困難だ。不動産会社の担当者等の、住宅ローンの実務に詳しい方にフォローしてもらおう。
とりわけ過去に金融事故を起こしている方は、やみくもに再チャレンジしてはいけない。自分の首を絞めることになる。
まとめ:住宅ローンの事前審査(仮審査)申込を自分でやってみよう
さいごに、本稿のおさらいをしておこう。
住宅ローンの事前審査は自分でできる?
可能だ。ただし、提携ローンや不動産会社等の紹介ローンも併用したい。提携ローンや不動産会社等の紹介ローンならではのメリットがある。詳しくはこちらをご覧いただきたい。
住宅ローンの事前審査を自分でやる手順は?
まず、希望する借入額を決めよう。目安は年収の6倍前後だ。そのあと必要書類を準備して、準備できたら事前審査に申し込もう。店頭やネットから申し込める。詳しくはこちらをご覧いただきたい。