「借り換えを急ぐべき?」と不安になる方が増えそうだ。近年、住宅ローンは地をはうような低金利が続いていたが、マイナス金利政策の解除により、今後は上昇局面を迎えるかもしれない。
しかし、焦って借り換えを急げば、失敗しやすくなる。まずは、借り換えにどの程度のメリットがあるのか、そしてどんなことをすると借り換えに失敗してしまうのか、知っておきたいところだ。
本稿では、住宅ローン借り換えの失敗例をご紹介する。心苦しいが、先達の失敗から学ばせてもらい、借り換えの成功率を上げよう。成功するためのコツも解説するので、参考にして欲しい。
住宅ローン借り換えの失敗例4選
それではさっそく、住宅ローンの借り換えでありがちな失敗例を4つご紹介する。
なお、あくまで「ありがちな失敗例」であり、実在の人物やトラブルとは関係ないことをご了承いただきたい。
失敗例1:諸費用額が利息の減少額を上回った
住宅ローンを借り換える際は、借り換えにかかる諸費用の金額を把握しておきたい。諸費用の金額が借り換えで生まれるメリットを上回ると、借り換えた意味がなくなってしまう。
たとえば、5年前に0.5%の変動金利型住宅ローンを借りた方が、金利0.38%の変動金利型住宅ローンに借り換える場合を想定してみよう。
条件は「残債額4000万円、残返済期間30年、元利均等返済」とする。試算しやすくするために金利が一定だったとすると、返済総額の軽減効果は「約-75万円」になる。
- 借り換え前 (金利0.5%):残りの返済総額 43,083,107円
- 借り換え後 (金利0.38%):残りの返済総額 42,329,450円
この借り換えで、諸費用が80万円強ほどかかってしまったらどうなるだろうか?
返済総額を減らせて喜んだのもつかの間、諸費用も考慮すると、少し負担が増えたことに気づくだろう。さらに、借り換えに要した手間も考慮すると「時間をムダにした」と後悔することになる。
「住宅ローンを借り換えれば、必ずお得になる」とは限らない。なぜなら、借り換えの際に以下のような諸費用がかかるからだ。
借り換え元の諸費用 | 借り換え先の諸費用 |
---|---|
|
|
諸費用を自己資金でまかなうとすると、以下の式が成り立たないと、借り換えても「お得」にならない。
借り換え前の返済総額 > 借り換え後の返済総額 + 借り換えの諸費用額
利息の軽減効果よりも諸費用のほうが高くついてしまうことがある。必ず、諸費用の金額を把握してから借り換えに臨もう。
とくに、残債が少ない場合や残りの返済期間が短い場合、あるいは借り換え元の住宅ローンと借り換え先の住宅ローンの金利差が小さい場合は注意が必要だ。
失敗例2:金利タイプの選択を誤った
金利タイプ(変動金利型/固定金利型)の選択を誤り、借り換えに失敗するケースもある。ただし、このケースの失敗は未然に防ぎづらい。答え合わせできるのが、かなり先になるからだ。
たとえば、今まで変動金利(1%)で借りていたものを借り換えと同時に固定金利(1.5%)に変更すると、どうなるだろうか?
金利が上がらない安心感は得られるが、毎月の返済額がアップしてしまう。一例として「残債額2000万円、残返済期間20年、元利均等返済」の場合は「4,531円」のアップになる。
- 借り換え前 (金利1.0%):毎月の返済額 91,978円
- 借り換え後 (金利1.5%):毎月の返済額 96,509円
よって、変動金利から固定金利に借り換えてみたものの、安心感を得られただけで、結果的に利息が膨らんだ ―― と言うこともあり得る。
仮定ではあるが「マイナス金利政策が解除されて、読みどおり固定金利はやや上昇。ところが、変動金利は固定金利のように上がらなかった」ということも起こりえるのだ。
なぜか?―― 変動金利と固定金利は、それぞれ連動する指標か異なるからだ。
- 変動金利の指標:短期プライムレート
- 固定金利の指標:長期金利(10年国債の利回り)
金利上昇がささやかれると「固定金利に変更して、安心したい」という方が増える。
しかし、変動金利の動向は、短プラしだいだ。金利上昇がささやかれただけで「変動金利は危ない」と判断するのは早計だろう。
とくに、マイナス金利政策が解除された今は注意したい。
たとえば、固定金利を選ぶなら「安心」の価値を評価する。
変動金利を選ぶなら、資金を繰り上げ返済や金利上昇に強い投資に回して金利上昇リスクを抑えると、後悔しにくくなるのではないか?
失敗例3:特典がなくなった
昨今、住宅ローンに手厚い特典を付けている銀行がある。借り換えにより、特典を利用できなくなると「失敗したかな?」と感じるかもしれない。
特典の例をあげてみよう (2024年4月現在)。
イオン銀行 | 契約者は、グループのお店での買い物がいつでも5%OFFされる |
---|---|
auじぶん銀行 | 特定のがんや疾病を発病したら、住宅ローンの残額が半分になる |
イオン銀行は、住宅ローンの契約者向けにお買い物特典を設けている。グループのお店での買い物が、いつでも5%OFFされるのだ。
auじぶん銀行も、50歳未満の方向けに、特定のがんや疾病を発病したら住宅ローンの残額が半分になる団体信用生命保険(団信)を用意している。しかも金利上乗せなしで、だ。
どちらも、大きな特典である。借り換えたことでこれらの特典が受けられなくなると、ジワジワと残念な気持ちがこみ上げてくることはあり得る。
借り換えで「がん50%保障団信」から「一般団信」になると、特定のがんや疾病を発症したときに補償を受けられなくなる。一般的な一般団信の保障は「死亡」と「高度障害」のみだ。
だから、団信の保障がレベルダウンすると、体調の衰えを感じ始めてから「借り換えてよかったのだろうか?」と不安が大きくなるだろう。
金利に目が行きがちだが、特典が大きい場合は、それも考慮して借り換えを決断する必要がある。
失敗例4:審査に落ちてしまった
審査に落ちることもあり得る。住宅ローンの借り換えは、別の住宅ローンを借りて、そのお金で今の住宅ローンを全額繰り上げ返済する行為だ。審査があるので、承認されないこともある。
たとえば「住宅ローンを借りたときは正社員だった。5年前に独立していて、今は年収が不安定。少しでも家計の負担を減らしたいので借り換えの審査を受けたが、落ちてしまった」といったケースだ。
住宅ローンは、金融機関ごとにさまざまな審査項目が設けられている。そのどれかに問題がある方は、融資の承認が得られない。
借り換えでチェックされる、審査項目の例をあげておこう。
- 本人確認
- これまでの返済実績
- 今の年齢と完済時年齢(返済期間)
- 健康状態(団体信用生命保険に加入できるか)
- お勤め先、勤続年数、所得額
- お勤め先の情報(規模や経営状態)
- 取引関係(反社会的勢力の人はいないか等)
- 住宅ローン以外の借入状況
- 返済負担率(年収に対する返済総額の割合)
- 物件の瑕疵(かし)や担保価値
- 与信(個人の信用度)
- 借入する人の人となり
審査項目や、その項目をどの程度重要視するかは、金融機関ごとに違う。よって、金融機関ごとに審査の特徴が変わる。
たとえば「A銀行は低金利だけど、自営業に厳しい」とか「B銀行は団信が手厚いけど、築古物件に厳しい」とか「C銀行はシングルマザーOKだけど、独身男性に厳しい」といった感じだ。
審査で承認されるかどうかは、審査を受けてみないと分からない。ただし、AI等を活用して審査承認率を推測してくれるサービスがあるので活用するとよいだろう。
一般的に「審査で承認されにくい」と言われる人の特徴をあげておこう。
- 返済実績が短い、あるいは遅延がある
- 転職していて勤続年数が短い
- 収入が下がっている
- 借入額が増えている
- 健康状態が悪くなっている
- 住宅の担保価値が下がっている
まず、借り換えの場合は返済実績を「1年以上」としている金融期間が多い。遅延等の履歴を確認するためだ。返済実績が短い、あるいは遅延がある方は、審査で承認されにくい。
勤続年数が数か月程度の場合も、審査で悪い印象を与えてしまう。とりわけ、短いスパンで転職を繰り返している方は、金融機関を納得させられる理由(ステップアップ転職など)がいるだろう。
収入が下がっている、あるいは借入額増えている方も要注意だ。返済負担率が高まるため、非承認になるリスクが高まる。
健康状態が悪化している方は、団信の審査に通りづらくなる。民間の金融機関は住宅ローンの融資時に「団信の加入」を必須としているので、団信に加入できなければ融資の承認を得られない。
また、住宅の担保価値が下がっている場合は、金融機関が融資に対して慎重になる。競売が必要になったとき、回収できる残債が減ってしまうからだ。
借り換えたあと後悔しないために覚えておきたい基礎知識
借り換えは、簡単な作業ではない。大きな手間と費用がかかる。家計にも直結するので、借り換えたあと後悔するような事態は避けたいところだ。
借り換えたあと後悔しないために覚えておきたい基礎知識を、ふたつご紹介しよう。
変動金利型と固定金利型の違い
借り換え時は、再び金利タイプの選択に迫られる。そのときの経済状況や家計の状態をふまえて、自分で判断する必要がある。
だから最低限、変動金利型と固定金利型の違いは理解しておくべきだろう。忘れてしまった方は、おさらいしておこう。
変動金利型の特徴
変動金利型住宅ローンには、以下の特徴がある。
- 借入当初の金利が固定金利より低い
- 金利が変わる (半年ごとに見直される)
- 未払い利息が発生するかもしれない
変動金利型の借入当初の金利は、固定金利型より低く設定されている。よって、元金の減りが早く、月々の返済額を低くおさえられる。
変動金利型は、半年に一度「金利の見直し」がある。だから、返済額が上がる可能性もある。好景気に上がりやすく、不況で下がりやすいので、預金の金利に似ていると言えるだろう。
急激な金利上昇が起こると、未払い利息が発生して、返済時に元金が減らなくなるリスクもある。もしも最後まで利息と元金が残ったら、最終返済日に一括返済するのが一般的だ。
メリットとデメリットの観点から、特徴をまとめ直しておこう。
メリット | デメリット |
---|---|
|
|
変動金利型は、どんな人におすすめできるだろうか?―― 相性がよい人の特徴をご紹介しておこう。
- 借入希望期間が短い人
- 早く元金を減らしたい人
- 将来的に収入アップが確実な人
- 定期的に金利動向をチェックできる人
- 金利上昇に備えてリスクヘッジできる人
一方、金利上昇に対して強い不安を感じる人や金利が上がると返済が滞りそうな人は、変動金利型との相性が悪い。
固定金利
フラット35等の固定金利型住宅ローンには、以下の特徴がある。
- 借入当初の金利が変動金利より高い
- 一定期間金利が固定される
- 固定期間中は変動金利型に変更できない
固定金利型は、変動金利型より元金の減りが遅くなるうえ、月々の返済額が高くなる。一方、金利が一定期間固定され、そのあいだは返済額が変わらない。
よって、金利が上昇していく局面に強い金利タイプと言えるだろう。逆に、金利の安定局面や下降局面では、変動金利型に比べてムダな返済が発生する。
金利の固定は、特約のような位置づけだ。よって、固定期間中は変動金利型に変更できない。変動金利型は、いつでも固定金利型に変更できる。
メリットとデメリットの観点から、特徴をまとめ直しておこう。
メリット | デメリット |
---|---|
|
|
固定金利型は、どんな人におすすめできるだろうか?―― 相性がよい人の特徴をご紹介しておこう。
- 変動金利に抵抗を感じる人
- 短期集中で完済できる見込みがある人
- 一定期間「金利上昇リスク」をなくしたい
一定期間「金利上昇リスク」をなくしたい人には、固定金利期間選択型が便利だろう。たとえば、もっとも家計の出費が激しい「お子さまの就学期間」に合わせて、金利を固定するのだ。
そうすれば、一定期間、金利上昇リスクのことを考えなくて済む。固定期間が終了したときには、金利が上がるかもしれないが、家計もラクになっているはずだ。
一方、できるだけ利息を減らしたい人や月々の返済額を少なくしたい人は、固定金利型戸の相性が悪い。
同じ銀行で借り換える方法はある?
同じ銀行で「借り換え」はできないのだろうか?もしもできるなら、給与振込口座の移動等の必要がなくなり、手間を省けそうだ。
―― 残念ながら、原則的に同じ銀行で「借り換え」はできない。ただし、同じ銀行で金利を下げてもらう交渉(契約内容の変更)はできる。
現在融資を受けている金融機関に金利を引き下げてもらえたら、借り換え並みか、それ以上のメリットがあるだろう。だから、交渉してみる価値は大きい。
借り換え | 必要書類を準備しなければならない。審査に申し込み、承認を得る必要がある。諸費用がかかる。 |
---|---|
契約内容の変更 | 手間がほとんど要らなくなる。審査も、借り換えより簡易的。お金も、ほとんどかからない。 |
借り換え予定の金融機関から提案書をもらったら、それを現在融資を受けている金融機関に持っていき「他行への借り換えをしたい。必要な準備を教えてほしい」と切り出してみよう。
あなたが引き留めるに値する顧客なら、金利引き下げを検討してくれるだろう。
住宅ローンの借り換えで成功するためのコツとは
最後に、住宅ローンの借り換えで成功するためのコツを3つご紹介して終わりたいと思う。借り換えをご検討中の方のヒントになれば幸いだ。
借り換えのタイミングを選ぶ
借り換えの効果を最大化したい方は、借り換えの効果が最大化するようなタイミングを選ぶといい。タイミングを計るときは、以下の3つの基本を頭に入れておこう。
- 返済残高が多いほど効果的
- 残りの返済期間が長いほど効果的
- 借り換え前後の金利差が大きいほど効果的
返済残高と返済期間のことを考えると、借り換えは早ければ早いほどよい。
しかし、返済実績が短い場合は、固定金利型から変動金利型へのチェンジを除き、借り換えてもあまり金利が下がらないだろう。
もしも、今後は金利が上昇局面に入ると考えるなら、やはり借り換えは早いほうがいいだろう。まだまだ金利は下がると思うなら、もう少しねばってみるのもいい。
諸費用と団体信用生命保険の内容を確認しておく
借り換えで大切なのは「利息の軽減効果が、借り換えでかかる諸費用を上回ること」だ。だから、諸費用額を把握しておく必要がある。
借り換え先の金融機関等に協力してもらい、概算で目安金額を出しておくとよいだろう。もう一度、諸費用の項目を掲載しておく。
借り換え元の諸費用 | 借り換え先の諸費用 |
---|---|
|
|
年々、金融機関の住宅ローン獲得競争が激化していることにも着目したい。金利だけでは差を付けにくくなり、団信の保障内容を手厚くし始めた金融機関が少なくない。
現在の団信の保障が「死亡・高度障害」のみの方は、借り換えは「団信を強化するチャンス」だ。団信をアップグレードできれば「安心」が手に入る。
いま一度、あなたの団信の内容を確認しておこう。そして、借り換え先の団信の保障内容と、現在の団信の保障内容を比較してみよう。
借り換えメリットをシミュレーションする
借り換えでお得になるかどうかは、ケースバイケースだ。借り換えを検討し始めたら、早い段階でシミュレーションしてみるとよい。
では、具体的にどうやってシミュレーションすればいいだろうか?―― いくつか候補があるので、あげておこう。
- 借り換え先の金融機関に依頼する
- ファイナンシャルプランナーに依頼する
- 住宅ローンの比較サービスを使う
第1候補は、借り換え先の金融機関を決めてシミュレーションしてもら方法だろう。
第三者がよければ、ファイナンシャルプランナーにシミュレーションしてもらう方法がある。昨今、無料で相談できるサービスもあるので、うまく活用するとよいだろう。
もっと簡単な方法から試したい方には、住宅ローンの比較サービスがおすすめだ。すでに15万人以上が活用している「モゲチェック」なら、5分程度の入力だけで以下の情報を受け取れる。
- 借り換えで減らせる利息額のシミュレーション
- お得に借り換えるためのアドバイス
- おすすめの銀行の提案
- 審査の通過率
モゲチェックなら、審査の通過率も推定してくれるので「せっかく申し込んだのに、審査に落ちた」というリスクが少ない。気に入った銀行が見つかれば、仮審査の申し込みもできる。
不明なことがあれば、アドバイザーにチャットで質問や相談もできるので安心だ。時間と手間と利息を節約したい方は、まずモゲチェックから試してみるとよいだろう。
詳しくは、こちらをご覧いただきたい。
モゲチェック《借り換え》の評判と口コミ、使って分かったデメリット
7月、日銀が追加の利上げを決定した。今後も利上げに慎重な姿勢を継続するようだが、住宅ローンで変動金利を利用している方のあ ...
まとめ:住宅ローン借り換えの失敗例から学ぼう
さいごに、本稿のおさらいをしておこう。
住宅ローンの借り換えでよくある失敗例は?
「諸費用額が利息の減少額を上回った」「金利タイプの選択を誤った」「特典がなくなった」などがある。審査に落ちるケースもあるので、注意したい。詳しくはこちらをご覧いただきたい。
住宅ローンの借り換えを成功させるコツは?
諸費用と団体信用生命保険の内容を確認しておき、借り換えのタイミングを選ぶことが大切だ。どれくらいお得になるのか、シミュレーションもしておきたい。詳しくはこちらをご覧いただきたい。