日銀がマイナス金利政策を解除したことで、住宅ローンの「借り換え」が活況だ。なぜなら、今後金利が上昇局面を迎えるのであれば、早めに借り換えたほうがお得だからだ。
しかし、借り換えには大きなコスト(諸費用)がかかる。だから「借り換えによる節約額」が「借り換えにかかるコスト」を上回るには、結構な時間を必要とする。
本稿では、この「上回る」時点を「住宅ローンの借り換えの損益分岐点」として、損益分岐点のシミュレーション方法をご紹介する。借り換えを検討する際の材料にして欲しい。
住宅ローン借り換えの「損益分岐点」とは
住宅ローンには、さまざまな損益分岐点が存在する。まずは、本稿が取り扱う「損益分岐点」の意味と、把握しておくことの大切さについて解説する。
節約額が借り換えコストを上回る時点が「損益分岐点」
住宅ローンの「借り換え」には、安くないコスト(諸費用)がかかる。だから、借り換えによる節約額が借り換えコストを上回るまでタイムラグが生じる。
損益分岐点があまりにも遠い借り換えは、注意が必要だ。損益が転換するまでに引っ越しする可能性がないか、慎重に検討して欲しい。―― なぜ、損益が転換する前の引っ越しが要注意なのか?
引っ越しするときは、現住居を売却して、借りている住宅ローンをいったん完済することになる。損益が転換する前に完済してしまうと、回収しきれなかったコストの分だけ損失が出てしまうのだ。
ただし、借り換えにより団信の内容を強化できるケースがある。未来のことが分からないが、がんや三大疾病等に罹患して「借り換えをしておいてよかった」となる可能性もなくはない。
だから住宅ローンの借り換えは、返済額の節約効果や損益分岐点、団信強化などをふまえて総合的に判断する必要がある。
損益分岐点をシミュレーションしてみよう
さっそく、あなたの損益分岐点をシミュレーションしてみよう。
以下の空欄を埋めて「損益分岐点を計算」ボタンを押してみて欲しい。あくまで目安ではあるが、今すぐ借り換えるといつごろ損益分岐点を迎えるのか分かるようになっている。
なお、返済残高や返済が終わる時期は、金融機関から送られてくる残高証明書等で確認できる。借り換え後の金利は、希望する金融機関のホームページ等をチェックして欲しい。
損益分岐点をシミュレーションする手順
既出のシミュレーションが、どのような手順でおこなわれているのか、少し説明しておこう。手順を把握することで、損益分岐点の理解が深まるだろう。
シミュレーションは、おおむね以下の流れで進んでいく。
STEP.1
返済残高から、借り換えにかかるコストを計算する
STEP.2
返済残高と借り換えコストの合計を、借り換え額とする
STEP.3
借り換え前後の金利から、それぞれの返済予定を確認する
STEP.4
借り換えによる月々の節約額を計算する
STEP.5
損益分岐点をチェックする
各ステップについて、補足説明しておこう。
繰り返しになるが、住宅ローンの借り換えにはかなりのコストがかかる。シミュレーションを試された方は「えっ!こんなに必要なの?」と驚かれたかもしれない。
おもな費目をご紹介しておこう。
現在の住宅ローン | 借換後の住宅ローン |
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上述の費用は、自己資金で支払うことも、借り換える住宅ローンに含めることもできる。後者の方が借り換えメリットを実感しやすいが、返済総額が増える点は注意が必要だ。
つづいて、現在の金利と借り換え後の金利を調べる。借り換え後の金利は、金融機関のホームページ等で調べられる。ただし、審査があるため、必ずその金利で借り換えできるとは限らない。
また、審査が否決される可能性もある。だから借り換えでは、審査で承認されそうな金融機関の中から金利や団信の条件がいいところを選ぶ必要がある。これが、なかなか難しい。
審査で承認されそうな金融機関を探したり、金利や団信を比較したりするなら「モゲチェック」が便利だ。簡単に、あなたにぴったりの住宅ローンを探せるだろう (無料)。
詳しくは以下の記事で解説しているので、ご興味がある方はあわせてご覧いただきたい。
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7月、日銀が追加の利上げを決定した。今後も利上げに慎重な姿勢を継続するようだが、住宅ローンで変動金利を利用している方のあ ...
借り換えにより金利が下がると、返済額に以下の節約効果が生じる。
- 借り換え前より借り換え後のほうが、毎月の返済額が減る
- 借り換え前より借り換え後のほうが、毎月の元金返済額が増える
これらの節約効果によって、うまくいけば、借り換えによる節約額が借り換えコストを上回る時期(損益がプラスに転じる時期)がやってくる。その時期が「損益分岐点」だ。
あとは、その損益分岐点まで全額繰上返済をしなければ、借り換えメリットを享受できる。
住宅ローンの借り換えで得する条件と失敗例
つづいて、住宅ローンの借り換えで得する条件や、失敗例をご紹介しよう。
得する条件:金利差1%以上、残高1000万円以上、残返済期間10年以上
住宅ローンの借り換えで得する目安は「金利差1%以上、返済残高1000万円以上、残返済期間10年以上」と言われる。
しかし、得するかどうかは試算してみないと分からない。3つの条件のどれかに当てはまったら、シミュレーションしてみるべきだ。
とりわけ、借り換え前後の金利差が大きい場合は、返済残高や残返済期間が少なくても借り換えによりメリットが出やすい。
住宅ローンの借り換えで得する条件については、以下の記事で詳しく解説している。ご興味がある方は、あわせてご覧いただきたい。
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失敗例:借り換え後に繰上返済してしまった
借り換えと繰上返済は、相性が悪い。借り換えによる節約効果を打ち消してしまうので、損益分岐点を迎えるまで繰上返済はしないほうがいい。
たとえば、借り換えたあとすぐに全額繰上返済を実行してしまうと、借り換えにかかったコストの分だけ損してしまう。必ず、節約額が借り換えコストを上回るまで約定どおりの返済を続けよう。
先述のとおり、引っ越しも注意したい。損益分岐点を迎えるまでに引っ越しすることになると、今借りている住宅ローンを完済(全額繰上返済)することになる。
今のお住まいを売却するときに借り換えの損益分岐点を迎えていなければ、借り換えコストを回収しきれていないため損失が出てしまう。
住宅ローン借り換えの「損益分岐点」が遠い場合の代替案
借り換えの損益分岐点が遠い方は「損益が転換するまでに引っ越しすることになったら、どうしよう……」と不安になるだろう。何か、打開策はないのだろうか?
思い出して欲しい。利息は「借入金額・返済期間・金利」で決まる。借り換えは、借入金額がアップするものの、金利が大幅ダウンすることでメリットが出る仕組みになっている。
つまり、借り換え以外の方法でも「借入金額・返済期間・金利」のいずれかを小さくできれば、利息の負担を抑えられる。
契約変更で金利を引き下げてもらう
金利を下げる方法は、借り換えだけではない。今、住宅ローンを借りている金融機関と交渉して、金利を下げてもらう方法もある。
メリットは、早ければ数か月で損益分岐点を迎えること
現在住宅ローンを借りている金融機関に金利を引き下げてもらえたら、借り換えに比べて少ない費用で済む。金利変更手数料が5千円から5万円くらいと、印紙代が数百円かかる程度だ。
この程度の費用で金利を下げられたら、早ければ数か月で損益分岐点を迎えることができる。手続きも、借り換えより簡単だ。だから金利引き下げは、借り換えより相当に負担を減らせるだろう。
デメリットは、失敗する可能性があること
一方、金利引き下げには短所もある。じつは、確実に応じてもらえるわけではないのだ。
銀行は、金利を無制限に引き下げられるわけではない。金利収入を下げすぎると、調達コストや経費、そしてデフォルトによる元本損失のコストを差し引くと何も残らなくなるからだ。
金利引き下げ交渉を成功させるには、ちょっとしたコツがある。他の金融機関への借り換えも、同時に進めるのだ。詳しくは、以下の記事をご覧いただきたい。
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繰上返済する
繰り上げ返済も、すぐに利息を削減できる。繰上返済とは、借入残高(元金)の一部を前倒しで返済する方法のことだ。借入残高の減少により、支払う利息を少なくできる。
繰上返済の手数料は「無料~1万円」程度だ。住宅ローンの契約をしたときに保証料を前納している場合は、繰上返済した分の保証料も戻ってくる。だから、とても即効性のある節約術と言える。
なお、繰上返済は以下の2つのタイプから選択できる。
期間短縮型 | 毎月の返済額は変えずに、返済期間を短縮するタイプ。長所は、借入金額と返済期間の両方を減らせるので、負担の軽減効果が大きいこと。短所は、団信の保障期間が短縮されること。 |
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返済額軽減型 | 返済期間は変えずに、毎月の返済額を減らすタイプ。長所は、団信の加入期間を維持できること。短所は、借入金額しか減らせないので、期間短縮型より負担の軽減効果が小さいこと。 |
手元の資金に余裕がある方は、繰上返済を検討してもよいだろう。
まとめ:住宅ローン借り換えの「損益分岐点」を把握しよう
さいごに、本稿のおさらいをしておこう。
住宅ローン借り換えの「損益分岐点」とは?
借り換えには、いくつか損益分岐点がある。そのひとつが「借り換えによる節約額」が「借り換えコスト」を上回る時点だ。詳しくはこちらをご覧いただきたい。
借り換えの「損益分岐点」の使い方は?
たとえば、損益分岐点を迎えるまで全額繰上返済をしないようにする。また、損益分岐点までに引っ越しするかもしれない方は、借り換えない方がいい。詳しくはこちらをご覧いただきたい。