
ユキノシタは、個性的な花と葉が魅力的な多年草だ。食材としても利用可能で、葉を天ぷらにするとおいしい。しかし「庭に植えてはいけない?」と心配する方が少なくない園芸素材でもある。
じつは、ユキノシタは繁殖力が強く、広がりすぎが懸念される。また、ナメクジの発生を助長するケースもある。そのため「他のグランドカバーにすればよかったかな?」となりがちなのだ。
本稿では、ユキノシタのリスクや、その対処法について詳しく解説する。ユキノシタの魅力や育て方のポイントもご紹介するので、お庭で栽培を楽しみたい方は最後までチェックしていただきたい。

ユキノシタ(虎耳草)を植えてはいけないって本当?その理由とは

ユキノシタは、腎円形の葉と大の字に咲く白花が魅力の多年草だ。古くは薬草として用いられていたので、多くのご家庭の庭に植えられていたなじみ深い植物である。
しかし、デメリットもあるため、それを知らずに植えると後々の後悔につながりかねない。長所と短所の両面を理解して植えることで、対策が打てたり、満足度が高まったりする。
ユキノシタの注意点を3つご紹介するので、お庭に植える際の参考にしてほしい。
繁殖力が強く、他の植物の生育スペースを奪う恐れがある
ユキノシタの学名の「stolonifera」は、ほふく枝(stolon)に由来する。ユキノシタは、種子だけでなく、細いランナー(走出枝)を使って繁殖できるのだ。
ランナーが土に接触すると、新しい株が形成され、これが繰り返されることで急速に広がる。この特性により、ユキノシタは短期間で広範囲にわたって増殖できる。

また、ユキノシタは日陰や湿度の高い環境に強い。そのような環境では、ユキノシタが優勢になりやすいだろう。だから、他の植物の成長を妨げることもあり得る。
成長を抑えるには、定期的に株を間引いたり、ランナーを切り戻す作業が必要だ。植える場所を選ぶことも、効果的だ。周囲にスペースのある、他の植物と競合しにくい場所を選ぼう。
一方、ユキノシタにはデリケートな側面もある。場所になじむと大増殖するが、なじめないといつの間にか消えてなくなってしまう。
踏みつけ対策やナメクジ対策など、植える際の注意点が多い
ユキノシタは、育成に比較的手間の掛からない植物だ。しかし、いくつか注意点もあり、対策を怠ると枯らしてしまったり、お庭の環境を悪化させてしまったりすることになる。
とりわけ、踏みつけやナメクジ、乾燥、直射日光にはご注意いただきたい。
踏みつけ対策
ユキノシタはグランドカバーとして利用されるが、踏みつけに非常に弱い。踏まれると、葉が傷んでしまう可能性が高いのだ。
だから、ユキノシタは人のあまり通らないエリアに植えることが推奨される。植栽周辺に小さなフェンスや障害物を設けることで、踏みつけを防ぐ方法もある。
ナメクジ対策
ユキノシタは、湿度の高い環境で育つ。ランナーで広がり、葉がロゼット状に生い茂るので、その下はジメジメした環境になりがちだ。つまり、ナメクジが集まりやすい。
ナメクジは、庭の植物を食べてしまう。独特のヌメリがあり、素手でつかむと石けんで洗ってもなかなか取れない。苦手な人が少なくないだろう。
ふざけてナメクジを食べた人が、寄生していた広東住血線虫に感染して死亡した事例もある。できればナメクジには集まってほしくないし、子どもやペットには触れさせたくない。
対策としては、ナメクジの隠れ家となる場所を減らすことが有効だ。ユキノシタが増えすぎた場合は、株を間引いて風通しをよくしよう。
捕獲も有効な手段だ。「バナナの皮をナメクジのいそうな場所に置く」「ビールの飲み残しを薄い皿に入れて置いておく」などの方法で誘い出せるので、集まったところを一網打尽にするとよい。
市販の駆除剤も、持っておくと便利だろう。
直射日光対策
ユキノシタは直射日光が苦手で、日に当たると日焼けして、回復不可能になる場合がある。とりわけ、夏の強い日差しは避けたい。直射日光が当たらない場所を選んで植えよう。
乾燥対策
ユキノシタは湿度の高い環境を好むため、乾燥も厳禁だ。土の表面が乾いていたら、乾燥しないように水を与えよう。
ユキノシタの生育に適した環境については、のちほど詳述する。
毒性があると誤解されている(他の植物と混同?)
一部で「ユキノシタには毒性がある」という誤解が広まっている。これも「雪の下は庭に植えてはいけない」と言われる一因になっているのではないだろうか。
ユキノシタには、毒性がないことが知られている。アジサイなどの他の植物と、混同されている可能性がある。
アジサイは、かつては《ユキノシタ科》に分類されていた (近年ではアジサイ科として独立)。また、健康への悪影響が懸念される《青酸配糖体》を含むと言われている (明らかではない)。
一方、ユキノシタは古くから定番の民間薬として用いられ、各家庭の庭の隅などによく植えられていた。とりわけ、むくみ・胃もたれ・下痢のときに、煎じ液を服用する用法が知られている。
解熱・解毒にも利用されており、中国・明代の『本草綱目』にも、急性の中耳炎に対してユキノシタの生の葉のつき汁を患部に付ける用法が記載されている。
また、ユキノシタはメラニンの合成を阻害するアルブチンという成分も含んでいる。美白化粧品の中にユキノシタエキスを配合したものがあることを、ご存じの方もおられるだろう。

そもそも、ユキノシタは昔から食用に利用されている。よって、過剰摂取には気をつけたいが、毒性については心配しなくてもよいだろう。

ユキノシタ(虎耳草)の魅力や庭に植えるメリット3選

ユキノシタは、お庭に植える草花として人気だ。たくさんの魅力を持っている。
ここからは、その魅力をご紹介しよう。ユキノシタの魅力を知れば、きっとあなたも育てたくなるはずだ。
独特の形状をした白花と根生葉が楽しめる
夏の季語でもあるユキノシタは、初夏に白い5弁花を咲かせる。その形は非常に個性的で、星のような対称的な形ではない。
ユキノシタの花は、上3枚の花弁には斑点があり、下2枚の花びらだけが長く伸びている。咲き誇る様子は、白いフェアリーが集まってきたかのようだ。

根生葉も個性的だ。色は濃い緑色で、葉裏は褐色を帯びており、葉脈には白い模様が入っている。葉の直径は、3~8cmほど。地面に密集して、ロゼット状に叢生している。
葉形もおもしろい。腎円形(ほぼ円形のハート形)をしていて、それにちなんだ以下のような別名がある。
- 虎耳草
- 鴨足草
そんなユキノシタは観賞価値が高く、特に和風の庭においては美しいアクセントとなるだろう。庭におもむきを加える要素として、非常に魅力的だ。
天ぷらや和え物など、さまざまな料理に利用できる
ユキノシタは、山菜としても利用できる植物だ。クセのない味で、よく天ぷらに用いられる。とりわけ、若い葉がおいしいとされる。
ユキノシタの天ぷら(白雪揚げ)の作り方を、カンタンにご説明しよう。
- 清潔なハサミで葉を収穫する
- 丁寧に水で洗い、ザルにあげて水分を切る
- 薄力粉と冷水をさっと混ぜ、ころもを作る
- 葉の下面だけころもを付けて、油で揚げる
ユキノシタは、オヒタシにされることもある。こちらも、作り方をご紹介しておこう。
- 湯を沸かし、塩をひとつまみほど入れる
- 雪の下の葉を入れて、軽く(1分程度)ゆでる
- 冷水にさらして、苦味を和らげる
- 軽く絞って、食べやすい大きさに切る
- 削り節を載せ、醤油やポン酢をかけて食べる
ユキノシタには粗い毛があるが、揚げたり茹でたりすることで気にならなくなる。
ユキノシタの食材としての利用は、育てる楽しみのひとつだ。お庭で栽培を始めたら、ぜひ天ぷらやオヒタシ作りに挑戦してみてほしい。
なお、雪の下の葉を収穫する際はハサミを使おう。根が浅いため、引っ張ると株ごと抜けてしまう。
適切な環境で育てれば手入れが少なくて済む
ユキノシタの原産地は、日本と中国だ。日本では、北海道から九州まで分布している。つまり、日本の環境に適応した植物であり、特別な手入れをしなくても育てられるのだ。
ただし、ユキノシタは山裾や谷川沿い、岩場などに自生する植物だ。あまり日の当たらない、湿った環境を好む。よって、乾燥や直射日光は避けたい。
繰り返しになるが、繁殖力が強いため、定期的に剪定や間引きも必要だ。適切な環境で一定の管理さえ実施すれば、ユキノシタは初心者園芸家でも育てられるだろう。


ユキノシタ(虎耳草)の植え方・育て方

ユキノシタの注意点と魅力を解説した。あなたは、ユキノシタを植えてみたくなっただろうか?
植えてみたくなった方のために、植え方と育て方のポイントをご紹介しよう。
ユキノシタを植えるのに適した環境
ユキノシタは、特定の環境条件を好む植物だ。その条件を、日照・土壌・気候にわけてご紹介しよう。
日照 | 半日陰から日陰の環境が適している。直射日光が強い場所では葉が焼けてしまう。 |
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土壌 | 湿り気があり、水はけの良い土壌を好む。乾燥した土壌では育ちにくい。適度な湿度を保つ。 |
気候 | 耐寒性がある。暑さにはやや弱い。湿度の高い環境を好むため、乾燥を避ける。 |
これらの条件を満たすことで、ユキノシタは健康に育ち、手間をかけずに楽しめるだろう。
ユキノシタの植え方と、植える際の注意点
ユキノシタはとくに土を選はないが、水はけと水持ちのバランスがよい土を好む。植える場所に腐葉土や堆肥を混ぜ込み、栄養豊富で水はけのよい土を作っておこう。

植え付けは、根付きやすい以下の時期が適期だ。真夏と真冬の植え付けは避けよう。
- 春(3~4月)
- 秋(9~10月)
植え付けるときは、5~10cmの深さの穴を掘り、株間を30~50cm程度空けて植えるとよいだろう。根を浅く張る性質があるので、深く植えすぎないように注意したい。
ユキノシタの育て方(水やり、施肥)のポイント
つづいて、水やりと施肥のポイントをご紹介しよう。
水やり
乾燥していない場所なら、地植えの場合は自然の降雨に任せてOK。基本的に、水やりは不要だ。ただし、長期間雨が降らない場合や乾燥した気候が続く場合には、土が乾かないように水を与えよう。
鉢植えの場合は、土が完全に乾燥しないように注意したい。土の表面が乾いたら、たっぷりと水を与えよう。株元に直接かけるようにし、葉や茎に水をかけないようにするのがコツだ。
施肥
ユキノシタは、基本的に肥料を必要としない。とくに地植えの場合は、土壌が自然に栄養を供給するため、肥料を与えなくても健康に育つ。
もし施肥をおこなう場合は、初秋に緩効性化成肥料を一度与える程度でじゅうぶんだ。過剰な肥料は、徒長を引き起こす可能性がある。
鉢植えの場合も、とくに肥料は必要ない。成長を促進したい場合は、植え付け時に元肥として土に混ぜ込むとよいだろう。春と秋の成長期にも、緩効性肥料を与えよう。
ユキノシタを水耕栽培で育てられる?
ユキノシタは、湿度の高い日陰を好む植物である。これらの情報を踏まえると、ユキノシタは水耕栽培ができる可能がある。
しかし、具体的な栽培方法や条件に関する詳細な研究、あるいは実体験のレポートが少ない。茎が伸びない・花が咲かない、とする実験結果もあり、土で育てるより高難易度であることが示唆される。
一方、ユキノシタは苔テラリウムの素材として人気で、ヒメユキノシタやゴショグルマなどがよく用いられている。あなたも、ユキノシタでテラリウムに挑戦してみてはいかがだろうか。

まとめ:ユキノシタを庭に植えてはいけないと言われる理由とは
さいごに、本稿のおさらいをしておこう。
ユキノシタを植えてはいけないって本当?
ユキノシタを庭に植えても問題ない。ただし、繁殖力の強さや踏みつけに対する弱さ、日照や乾燥の対策、ナメクジの発生しやすさなどに注意が必要だ。詳しくはこちらをご覧いただきたい。
ユキノシタの魅力は?
ユキノシタは、独特の形状をした白花と根生葉が楽しめる。天ぷらや和え物など、さまざまな料理に利用できる。育成も比較的簡単で、初心者にもおすすめだ。詳しくはこちらをご覧いただきたい。