
シキミは「庭に植えてはいけない」と言われる。そのおもな理由は「劇物に指定されるほどの猛毒がある」「お墓や仏壇で見かけるから縁起が悪い」などだが、本当のところどうなのだろう?
あなたも「庭に植えたい気もするけど、危険かな?子供やペットがいるしなあ……。でも、詳しい情報が少なくて判断できない」と悩んでいないだろうか?もしそうなら、本稿が参考になる。
本稿では「シキミを庭に植えてはいけない」と言われる理由や、代わりに植えられる安全で縁起のよい植物を紹介する。本稿をヒントに、大切な家族やペットが安心して過ごせるお庭を作ってほしい。
「シキミを庭に植えてはいけない」と言われる理由

さっそく「シキミを庭に植えてはいけない」と言われる2つの理由からご紹介しよう。
- 毒性が強く、食べると死亡する可能性がある
- 仏事との結びつきが強く、縁起が悪いとする俗信がある
それぞれ詳しく解説する。
毒性が強く、食べると死亡する可能性がある
シキミは全草(茎・葉・果実・種子など)に「アニサチン」などの毒成分を含んでいる。そのため「悪しき実」とも呼ばれ、これが「シキミ」の名の由来になったとする説がある。
誤って口にすると「嘔吐・下痢・目まい・呼吸困難・けいれん・血圧上昇」などを引き起こす。
シキミの実は、植物の実としては唯一政令で「劇物」に指定されており、取り扱いには細心の注意が求められる。
小さな子どもやペットがいるご家庭では、誤食のリスクをなくすため、植えないほうが安心だろう。
植物の中には猛毒を持つものが少なくない。トリカブトはその代表だろう。
ではなぜ、ことさらにシキミの実を劇物に指定しているのか ⸺。じつは、シキミの実は、香辛料に使われる八角(スターアニス)に非常によく似ている。そのため、誤食の危険性が高いのだ。
重症の場合は致命的な中毒を引き起こす可能性があるため、食べないように注意したい。
仏事との結びつきが強く、縁起が悪いとする俗信がある
シキミは古くから仏壇や墓前に供える仏具(供花)として、葬儀や法要の場でよく用いられてきた。そのため、一般家庭の庭に植えるのは不吉と考える人が少なくない。
他にも、以下のような理由で「縁起が悪い」と言われる。
- お墓の周りに植えられている
- ご遺体の枕元に供える《一本花》として使われることがある
- 名前の由来が不吉
それぞれ、補足説明を加えておく。
お墓の周りに植えられている
まだ土葬だった時代、墓や遺体を動物から守るため、シキミをお墓の周りに植え始めたと言われている。シキミは毒性や香りが強いため、動物が忌避するそうだ。
ご遺体の枕元に供える《一本花》として使われることがある
シキミは、ご遺体の枕元に供える《一本花》に使われる。これは、強い香りで死臭を清めるため、あるいは遺体を狙う妖怪を退散させるためだとされる。
名前の由来が不吉
先述のとおり「シキミ」は「悪しき実 (あしきみ)」から転じたという説がある。このような由来を気にして敬遠する方もいる。
また、シキミは漢字で「梻」と書くこともでき、旁に「佛 (仏)」が入っている。そのため、神道の信仰を重んじる家ではシキミを庭木に用いないとされる。

こうした背景から、「シキミは仏事に使われる植物」というイメージが一般化している。そのため、庭に植えると悪い出来事を招くと敬遠されることがあるのだ。
仏教儀礼で「聖なる植物」として使われる一方で、家庭では「不吉」とされる矛盾は、信仰と俗信が交錯するシキミ特有の二面性と言える。
シキミの魅力・庭に植えるメリット

シキミは、毒性や仏事との結びつきにより「庭に植えてはいけない」と言われることがある。一方、シキミにはメリットもあるため、好んで庭に植える方もいる。
シキミの代表的なメリットを3つご紹介するので、魅力を感じた方は育ててみてはいかがだろうか。
常緑性で、一年中緑の葉を楽しめる
シキミは常緑性の樹木で、冬でも枯れず、一年中濃い緑の葉を楽しめる。
古い葉が落ちることはあるが、病気でもない限り、一気に落葉することはない。徐々に新しい葉と入れ替わっていく。

シキミは、春になると枝先に黄白色の花を咲かせることもあり、庭に静かな彩りを添えてくれるだろう。
以上から、シキミは初心者でも安心して使える低木と言える。
葉が落ちにくく、生育が穏やかなため、生垣に適している
シキミは、以下の理由で「生垣に適している植物」と言える。
- 常緑で葉が落ちにくい
- 枝葉がよく茂り、密度が出やすい
- 縦に育つため、狭いスペースにも有効
- 樹勢がほどよく、生育が穏やか
シキミは、冬でも枯れずに緑を保ってくれる。落葉が少ないので、掃除の手間が少ないところも魅力のひとつだ。
葉が枝先に密につくため、目隠し効果も高い。枝が横に広がるタイプではないので、狭いスペースでも効率よく植えられる。プライバシー保護に適した樹木だ。
一方、成長スピードはゆるやかで、こまめな剪定をしなくても整った形を維持できる。放っておいても暴れにくく、管理の負担が少ないのが特長だ。
抹香のような独特の香りがあり、邪気を払うとされる
シキミの葉や樹皮を乾かして粉末にすると、抹香(焼香に使う粉末)や線香の原料になる。単純に葉をもんだり傷つけたりするだけでも、抹香のような香りが漂う。
香りと毒性の精神的な効果
この独特の香りと毒性から、「シキミには邪気を払う力がある」と信じられてきた。これが、寺院や墓地に植えたり、葬儀で「一本花」として飾ったりする理由のひとつとなっている。
京都市を中心とする関西地方の葬儀では、葬儀会場の入り口や寺院の門前にシキミ(門樒)を飾る。これも、亡くなった方を邪気から守ると信じられているからだ。
香りと毒性の実用的な効果
シキミは、死者を火葬するまでのあいだ、ご遺体を安置しておく際に腐臭を紛らわせる働きをする。シキミを墓地に植えておけば、その香りと毒性を忌避する野生動物を遠ざけることも可能だ。
仏前や墓前にシキミを供える習慣がある地域なら、シキミを育てておけば、わざわざ購入しなくてよくなる。このような実用面からも、意図的にシキミを栽培するケースがある。
シキミを鉢植えにできる?植え方・育て方を解説

シキミは葉が艶やかで、香りも楽しめる。そのため、鉢植えにして室内やベランダのインテリアにしたい方もいるだろう。
結論から言うと、ぜひ挑戦してほしい。シキミは鉢植えでも育てられる。
ただし、シキミは全体に毒成分を含むため、取り扱いには注意が必要だ。小さな子どもやペットがいるご家庭は、置き場所に気をつけるか、他の植物を育てるほうが無難だ。
シキミを植えるのに適した環境
シキミは午前中だけ日が差す《半日影》で適度に湿度がある環境を好む。
日当たり・場所
シキミは、明るい半日陰を好む。西日は避けたい。強い日差しが当たる場所は土が乾きやすく、生育が悪くなるので注意しよう。
屋外なら、ベランダや玄関先など、真夏の直射日光が当たらない場所が適している。室内で育てる場合は、窓際など明るい場所に置くとよい。
温度・湿度
シキミは湿度のある環境を好み、水切れに弱い植物だ。暑い季節は、明るめで涼しい日陰に移動させよう。
空気が乾燥する季節は、霧吹きで葉に湿り気を与えたり、加湿器で湿度を上げたりするなどの工夫をしよう。
耐寒性は、それほど強くない。とくに根元が凍らないよう、厳寒期は室内や軒下で管理すると安心だ。
シキミの植え方と植える際の注意点
シキミには、保水力と排水性を備えた土が必要だ。植え付け直後の水切れに注意したい。
鉢底から根が飛び出したり土が硬くなったりしたら、植え替えのサインだ。
植え付け準備
鉢は苗の根鉢(根の周りの土)よりひとまわり大きめで、鉢底穴があるものを用意しよう。軽石や鉢底石を敷いて、排水性を確保しておきたい。
土は、保水力と排水性の両方を備えた土がよい。鉢植えの場合は、保水力と保肥力に優れた黒土をベースに、腐葉土やもみ殻などを混ぜて通気性と排水性を高めた用土をつくる。
シキミは弱酸性(pH5.5~6.0)を好むので、土がアルカリにならないよう注意しよう。
植え付け方法
植え付け時には鉢に土を半分ほど入れ、苗を中央に置いて残りの土で根元を覆う。根鉢と土の間に隙間ができないよう軽く押さえ、最後に水をたっぷり与えて土を馴染ませよう。
植え付け直後は、根が水分を吸えるように水切れさせないことが大切だ。だだし、黒土や腐葉土を中心にした土は保水力が高いので、水やりは土の表面が乾いてから与えるようにしたい。
植え替えの目安
鉢植えの場合、目安として2~3年周期で植え替えをおこなうとよい。根が鉢底から見えてきたり、鉢土が硬くなったりしたら植え替えのサインだ。
植え替え適期は春(4~5月)で、根を傷めないように古い土を軽く落としてから、新しい土に植える。植え替え後は水をたっぷり与えて土に馴染ませよう。
鉢植えでは過湿や鉢底穴の詰まりに注意し、根腐れを起こさないようにすることが大切だ。
シキミの育て方(水やり・施肥)
シキミは乾燥に弱いため、鉢栽培では水切れに注意したい。乾燥すると葉が痛んで回復しづらく、そのまま枯れてしまうこともある。
肥料は、休眠前の寒肥や、開花後の追肥が有効だ。補足説明をしておこう。
水やり
鉢土の表面が乾いたら、鉢底から水が流れ出るくらいたっぷり水を与えよう。晴天が続く場合は、土の乾き具合を確認しながら水分が不足しないようにしたい。
水不足になると葉がしおれて光沢が失われるので、注意が必要だ。
肥料
休眠前(2~3月)に有機肥料(油かす・骨粉・堆肥・腐葉土など)で寒肥を施そう。開花後の初夏(6月頃)にも、追肥として同じような肥料を与えるとよい。
化成肥料を使う場合は、生長期の前半(3~5月)に緩効性肥料を与え、開花後に液肥を追加すると効果的だ。

シキミを剪定する際のポイント
シキミは自然に樹形が整うため、込み合った枝を取り除く「すかし剪定」を主におこなえばOKだ。
一方、シキミは強く刈り込んだとしてもまた芽吹いてくれる。剪定初心者でも失敗しにくい植物と言えるだろう。
剪定の適期は、新芽が伸び始める前の《初夏 (5~6月)》、または寒さが来る前の《秋 (9月頃)》だ。
頂芽(枝先の芽)を摘み取って枝数を増やし、混み合った枝は枝元から間引くように切るとよい。

剪定した枝葉には香りがあるので、切り取ったものを仏前に飾るなどして楽しむこともできる。
なお、剪定後の切り口から病原菌が入りやすい。清潔な剪定バサミを使い、大きな切り口には園芸用の癒合剤を塗っておくと安心だ。
シキミの病虫害対策
シキミがかかりやすい病虫害をご紹介しておこう。
代表的な虫害
クスアナアキゾウムシ
コミカンアブラムシ
ハマキガ類
シキミグンバイ
アオバハゴロモ
シキミタマバエ
フシダニ
代表的な病害
輪紋葉枯病
白藻病
炭そ病
すす病
定期的に病虫害をチェックしやすいのが、鉢栽培のよいところ。上述のような病虫害にかかっていないか、こまめに確認したい。
シキミ(樒、梻、シキビ、ハナノキ)のよくある疑問

ここまでご覧いただいた方なら、もうシキミを育てられるはずだ。すぐにシキミの苗を探して購入してみよう。「思い立ったが吉日」である。
ここからは、シキミのよくある疑問とその回答をご紹介する。もっとシキミのことを知りたい方は、引き続きご覧いただきたい。
シキミとは?
シキミ(学名:Illicium anisatum)は、日本や台湾、韓国などに自生するマツブサ科シキミ属の常緑小高木だ。漢字では「樒」や「梻」と書き、「シキビ」や「ハナノキ」などとも呼ばれる。
重要な特等をまとめておこう。
外観 | 樹高は3~5メートル程度に達する。葉は濃い緑色で光沢があり、少し厚みのある革質。春に淡黄色の可憐な花を咲かせる。 |
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香り | 独特の芳香を持ち、抹香や線香の原料にもなる香木として知られる。仏事によく用いられ、寺院や墓地に植えてあることも多い。 |
毒性 | 根・葉・枝・花・実のどの部位にも毒性がある。とくに「実」は劇物に指定されている。香辛料の八角とよく似ているため、誤食に注意。 |
シキミと仏教(宗派)の関係は?
シキミは漢字で「梻 (佛=仏)」と書くことからもわかるとおり、仏教儀礼と深い関わりがある植物だ。
『真俗仏事編』によると、そもそもシキミは鑑真によってもたらされ、形が天竺の池の青蓮華に似ているため、仏に供えられたそうだ。
今でも、多くの寺院で仏事に用いられている。しかし、宗派や地域によって使い方に若干の違いがある。
宗派による違い
宗派による「シキミの使い方の違い」をご紹介しよう。
浄土宗 | 葬送儀の際、枕飾りの一本シキミのほか、地域によっては供花として用いられる。位牌や仏壇などから魂を抜く儀式「撥遣式」の際にも散華(まいて供養に用いる花弁)として使われる。 |
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浄土真宗 | 「極楽浄土には清浄な水(八功徳水)が豊富に流れているから、飲み物をお供えする必要はない」という考え方がある。その代わり、仏壇の華瓶(花用の小さな水器)に水を入れシキミを挿して飾る。 |
真言宗 | 真言宗宗祖・空海が唐で青蓮華の代用品としてシキミを使ったと言われる。このことが、シキミの漢字表記に「樒」の字が使われる一因とされる (真言宗は、中国密教を基盤としている)。 |
日蓮正宗 | 特別な存在として、仏壇や墓石にシキミをお供えする。美しい花が散る様子を「無常」と説き、常緑のシキミを「常住不変=永遠の命」の象徴としている。香木の「沈香」の代用とも考えられている。 |
地域差
シキミは、とくに関西地方の仏事で盛んに使われている。
葬儀会場の入口やお寺の門前に飾る門樒や、祭壇の左右後方に飾る二天樒の風習がある。これらは故人を邪気から守る結界とされている。
シキミとサカキの違い(見分け方)は?
シキミとサカキ(榊)は、どちらも仏事・神事に使われる常緑樹だ。外見が似ているため混同されやすいが、用途に違いがある。
どうやってシキミとサカキを見分ければいいのだろうか?⸺ ポイントをまとめておこう。
項目 | シキミ (樒) | サカキ (榊) |
---|---|---|
種類 | マツブサ科シキミ属 | モッコク科サカキ属 |
主な用途 | 主に関西地方で仏壇・墓前・葬儀など | 全国的に神道の神棚・神事・祭礼など |
毒性 | 全草に毒性あり | 無毒 |
名前の由来 | 「悪しき実」「四季美 (四季を通じて美しい)」など諸説あり | 「境木 (神と人の境界)」「栄える木 (常緑の繁木)」など諸説あり |
葉 | 肉厚で少し波打ち、枝先に集まってつく | やや薄くて平ら、枝を挟み2列で互生する |
花 | 3~5月ごろに咲く、淡黄色の長楕円形の花弁 | 5~7月ごろに咲く、淡黄色の短楕円形の花弁 |
実 | 袋果の集合体で、八角に似た星形の形状 | 球形の液果 (多肉質または多汁質の果実) |
香り | 抹香のような香り | ほぼ無臭 |
見慣れていない人とって、葉の形状でシキミとサカキを見分けるのは難しい。一方、花や実、香りを比べると明確な違いに気づくだろう。
花や実が付いていないときは、葉のつき方に着目するか、葉や樹皮を少しキズ付けて香りをチェックしてみるといい。サカキはほぼ無臭だが、シキミは抹香のような甘い香りがする。
シキミの代替になる植物は?
どうしてもシキミの毒性や縁起が気になる場合、他に代わりになる植物はないだろうか?
シキミと似た雰囲気を持ちつつ毒性がない、縁起のよい常緑樹としては、サカキやコウヤマキ(高野槙)があげられる。
その他、縁起のよい植物としてよく知られるナンテン(南天)も候補になるだろう。
サカキ(榊)
サカキは神道の神事で使用されることが多いが、シキミの代替として仏事でも用いられることがある。
葉の形状や質感がシキミに似ており、毒性がないことから、安全に扱えるのが魅力だ。とくに、シキミの毒性が不安な場合には、サカキはよい代替となるだろう。
コウヤマキ(高野槙)
高野槙は和歌山県の高野山に多く自生し、仏教と深い関係を持つ常緑樹だ。シキミと同様に葉の形状が美しく、神聖な植物として仏事に使用されることがある。
シキミと異なり、毒性がないため安全に使用できるのが利点だ。
ナンテン(南天)
南天は「難を転じる」という語呂合わせから縁起のよい植物とされる。冬に赤い実をつけることから観賞価値が高く、正月飾りに使われたり、装飾的な用途で使用されたりすることが多い。
果実には弱い毒性があるが、シキミほどの危険性はなく、扱いやすい植物だ。
まとめ:シキミは庭に植えてはいけない?
さいごに、本稿のおさらいをしておこう。
シキミは庭に植えてはいけない?
植えても構わないが、全草が持つ毒性には注意が必要だ。また、縁起が悪いとする俗信もある。毒性や縁起が気になる方は、他の植物にするほうが無難だろう。詳しくはこちらをご覧いただきたい。
シキミの魅力や庭に植えるメリットは?
シキミは常緑性で一年中緑を楽しめる。また、葉が密に茂り、生育が穏やかなため、生垣に適している。抹香のような独特の香りは、邪気を払うと言われる。詳しくはこちらをご覧いただきたい。