日銀がマイナス金利政策を解除したことで、住宅ローンの「借り換え」が活況だ。しかし、借り換えには大きな手間と諸費用がかかるため、検討し始めてみたものの二の足を踏む方が少なくない。
では、同じ銀行で借り換えはできないのだろうか?―― 結論から言うと、原則的にできない。銀行にメリットがないからだ。しかし、同じ銀行で「金利引き下げの契約変更」ならできるかもしれない。
本稿では、同じ銀行で住宅ローンの借り換えができない理由や、代案のメリットと注意点をご紹介する。あなたも、同じ銀行で今より返済総額を減らし、家計をラクにしてみてはいかがだろうか?
住宅ローンの借り換えは、原則的に同じ銀行ではできない
借り換えとは、新しく住宅ローンを借りて、今借りている住宅ローンを一括返済する行為のことだ。借り換えは、原則的に同じ銀行ではできず、借り換え元と借り換え先は別の銀行になる。
では、なぜ同じ銀行で借り換えることができないのだろうか?
【理由】銀行にとってメリットがない
同じ銀行で借り換えられない理由は、銀行にとってメリットがないからだ。
違う銀行なら、借り換えてもらうことで顧客や貸出残高を増やせる。しかし、同行内の借り換えでは利益を減らすだけで終わってしまう。
想像してみよう。あなたが35年間のサブスク契約をした顧客から、契約途中で「値下げして、再契約して欲しい」と頼まれたらどうだろうか?
だから、原則的に銀行は、契約者が同行で借り換えることを認めていない。
しかし、例外がある。以下のような異なる住宅ローン商品への借り換えは、承認される場合があるのだ。
- フラット35から、フラット20に借り換え(金利の引き下げ)
- 一般的な住宅ローンから、フラット35に借り換え(金利上昇リスクの回避)
ただし、この変更も確実に承認されるわけではない。銀行によっては認められない場合がある。
一方、特段の理由があれば話は別だ。たとえば、あなたが他行の住宅ローンに借り換えようとしている場合は、あなたがつなぎ止めるに値する顧客なら、銀行もあなたの要求を聞かざるを得ない。
借り換えで他行に取られるくらいなら、金利を下げてでも自行にとどめたい ―― そう思ってもらえたら、あなたの「借り換えたい」という話を聞いてもらえるだろう。
【代案】契約内容の変更で負担を減らすことは可能
住宅ローンの借り換えは、同じ銀行ではできない。一方、契約内容の変更なら銀行と交渉できる余地がある。うまく活用すれば、借り換えと同じく返済総額を減らせるだろう。
利息は「借入金額・返済期間・金利」で決まる。契約内容の変更でいずれかを小さくできれば、利息の負担も小さくなる。いくつか例をご紹介しよう。
借入金額を変更する
繰上返済をおこなうことで、返済総額を減額できる。
繰り上げ返済とは、借入残高(元金)の一部または全額を前倒しで返済する方法のことだ。借入残高の減少により、支払う利息も少なくなる。保証料も、一部戻ってくるだろう。
繰り上げ返済をする際、以下の2つのタイプから選択できる。
期間短縮型 | 毎月の返済額は変えずに、返済期間を短縮するタイプ。長所は、借入金額と返済期間の両方を減らせるので、負担の軽減効果が大きいこと。短所は、団信の保障期間が短縮されること。 |
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返済額軽減型 | 返済期間は変えずに、毎月の返済額を減らすタイプ。長所は、団信の加入期間を維持できること。短所は、借入金額しか減らせないので、期間短縮型より負担の軽減効果が小さいこと。 |
繰上返済のメリットは、銀行から断られるリスクがないところだ。よほどの理由がない限り、必ず実行できる。手数料も「無料~1万円」程度で済む。
デメリットは、期間短縮型を選んだ際に団体信用生命保険(略:団信)の保障期間が短くなることだろう (返済額軽減型は団信の加入期間を維持できる)。
一般的に生命保険の使用率は高齢になるほど上がる。よって、長く加入できることはメリットになるだろう。つまり、保障期間の縮小はデメリットと言える。
団体信用生命保険とは
なお、繰上返済は、返済初期に実行するほど負担軽減効果が大きくなる。逆に、返済末期に近づくほど効果が薄くなる。
返済期間を変更する
返済期間も、銀行と交渉できる。返済期間を短くすると、返済総額を下げられる。一方、月々の返済額は上がる。
返済期間は、長くすることも可能だ。こちらは月々の返済額を下けられるが、返済総額は増えてしまう。
ただし、返済期間の延長は、一般的に返済が苦しい方向けの救済措置として利用されている。よって、返済が苦しくなった経緯を銀行に説明して、納得してもらう必要がある。
金利タイプを変更する
変動金利型から固定金利型へ変更すことも、可能だ。固定金利に変更することで、金利上昇局面では総返済額を抑えられる場合がある。
一方、固定金利型から変動金利型への変更は、原則的にできない。金利の固定は特約のような立て付けになっていて、固定期間中は変動金利型に変更できないのだ。
変更したい方は、固定金利の適用期間の満了を待つか、借り換えによって金利タイプを変える必要がある。
金利を変更する
交渉によって、金利を下げてもらうことも可能だ。「何か難しそう」と感じるかもしれないが、そんなに難しいことではない。
ただし、コツがある。まずは、住宅ローンを借りている銀行のホームページで新規融資の金利を確認してみよう。あなたが融資を受けたときと比べて下がっているなら、交渉の余地がある。
それから、他行への借り換えも同時に進めよう。「借り換え」という選択肢を用意しておくことで、金利引き下げの交渉材料にできる。
なお、借り換えや金利引き下げ交渉は、誰でもできるわけではない。借り入れたときよりネガティブな変化があれば、非承認になるケースが少なくない。
たとえば、退職等で収入が少なくなっている人は交渉が難しい。一括返済を交渉材料にするなど、作戦が必要になる。何らかの理由で担保価値が著しく低下している場合も、注意が必要だ。
借り換えではなく、契約変更(金利を下げる)にするメリット
さて、借り換えと契約変更(金利を下げてもらう)では、どちらがいいのだろうか?―― 身もフタもない話だが、人によるだろう。
つづいて、契約変更による金利引き下げのメリットとデメリットについて解説する。選択のヒントにしていただきたい。
ではさっそく、メリットからご紹介しよう。おもなメリットは、3つある。
メリット1:手間が減る
金利引き下げの契約変更は、借り換えに比べて手間が少ない。借り換えはとても面倒で、以下の作業や手続をおこなう必要がある。
- 審査に必要な書類の準備
- 給与の振込口座の変更
- 新たな住宅ローンの契約
- 現在借りている住宅ローンの一括返済
- 抵当権抹消・設定の手続き
借り換えは、順調に進んだとしても、完了まで1か月程度かかるだろう。だから、時間に余裕を持って進めていく必要がある。
一方、金利引き下げの契約変更なら、1週間もあれば回答が出る。やり取りも、電話だけで完結できる銀行もある。忙しい方には、借り換えより契約変更のほうが合っているだろう。
メリット2:審査が簡易的
借り換えでは、新規借入と同様の審査が実施される。一方、契約変更の審査は、借り換えより簡易的だ。口頭のやり取りだけで、書類の提出を求められないケースもある。
金利引き下げの契約変更では、返済実績をチェックされる。遅延があると、交渉に応じてもらえない場合がある。
さらに、返済負担率(返済比率)もチェックされるだろう。返済負担率とは、年収に対する返済総額の割合のことで、返済総額には住宅ローン以外のローンも含める。
メリット3:少ない費用で済む
契約変更は、借り換えに比べて費用がかからない。金利変更手数料が5千円から5万円くらいと、印紙代が数百円かかる程度だろう。
一方、借り換えは数十万円の諸費用がかかる。100万円を超えるケースもあるだろう。
諸費用の項目をご紹介しておこう。
- 全額繰上返済手数料
- 事務手数料
- 保証料
- 印紙代
- 抵当権抹消費用
- 抵当権設定費用
なお、オンラインで契約を締結する場合は、原則として印紙代がかからない。
知っておきたい、契約変更(金利を下げる)のデメリット
つづいて、金利引き下げの契約変更のデメリットをご紹介しよう。おもなデメリットは、ふたつある。
デメリット1:団体信用生命保険の見直しができない
住宅ローンの獲得競争の激化で、銀行は金利だけでなく団信にも力を入れている。だから、ひと昔前の団信より、今の団信は保障内容が手厚くなっている。
そこで、契約変更時に「団信も見直したい」と考える方が少なくないだろう。しかし、残念ながらそれはできない。団信は、原則的に契約後の変更ができないからだ。
一方、借り換えの場合は団信の保障内容も見直せる。借り換えは、新しい住宅ローンを組むことになるので、団信も新たに契約し直す必要があるからだ。
団信を見直すと、金利以上のメリットが出る場合もある。団信の保障を充実させたい方は、契約変更より借り換えのほうがよいだろう。
ただし、年齢や健康状態によっては、希望する団信に加入できない場合がある。また、保障内容によっては、0.1~0.3%程度の金利が上乗せされる場合があるので注意したい。
デメリット2:必ず交渉できるわけではない
金利引き下げの交渉は、繰り上げ返済のように確実に応じてもらえるわけではない。なぜなら、銀行は金利を無制限に引き下げられるわけではないからだ。
金利収入を下げすぎると、調達コストや経費、そしてデフォルトによる元本損失のコストを差し引くと何も残らなくなる。損益分岐点を下回る場合は、交渉に応じてくれないだろう。
まず、利用中の銀行の新規住宅ローン実行金利をチェックしてみて欲しい。目安として、金利の差が0.50%以下なら、断られる可能性が高くなる。
また、お客様の意向を尊重して、無理に引き止めない方針の銀行や店舗もある。とりわけ、効率重視かつ潤沢に顧客がいる大手は、去る者は追わずの姿勢が強いだろう。
金利引き下げ交渉では、よい返事がもらえないと判断した場合には、引き下がることも大切だ。今までどおり返済を続けるか、思い切って借り換えする方向へ舵を切るか選択しよう。
借り換えではなく、契約変更を選ぶ際の注意点
最後に、借り換えではなく、金利引き下げの契約変更を選ぶ際の注意点をご紹介しよう。
借り換えも検討して、具体的に進めておこう
高額の住宅ローンを借りている方、あるいは資産家や高給取りであるなら、銀行に「金利を下げて欲しい」と言えばすぐ検討してくれるかもしれない。
しかし、そうでないなら、交渉前に何の対策もしていないと失敗する確率が上がるだろう。しっかり事前準備をおこなったうえで、慎重に交渉に臨みたい。
近年は住宅ローンの顧客獲得競争が激化していて、銀行には「顧客を、借り換えで他行に取られたくない」という思いがある。これを利用させてもらおう。
おすすめの手順をご紹介する。
STEP.1
まず、現在住宅ローンを借りている銀行に、返済予定表(償還予定表)の再発行を依頼してみよう。
察しのいい銀行員なら「ご使用の目的は何ですか?」と聞いてくれる。「借り換えを検討している」と伝えれば、銀行側から交渉を持ちかけてくれることもあり得るだろう。
STEP.2
step1で銀行側からとくにアクションがなければ、借り換え先の銀行を決めて事前審査に申し込もう。事前審査で承認を得ておくことで、信ぴょう性や、あなたの信用力の証明になる。
STEP.3
事前審査で承認されたら、借り換え元の銀行に一括繰り上げ返済の手順を確認しよう。あなたが引き留めるに値する顧客なら、銀行側から交渉を持ちかけてくれるだろう。
このとき、他行の事前審査の承認があると、それが生きてくる。銀行の担当者は、借り換え先銀行の金利のエビデンスがあると、契約内容変更の稟議をあげやすいのだ。
STEP.4
金利引き下げ交渉の返答が来たら、借り換えと契約変更、どちらにするか決めよう。単純に金利だけで判断するのではなく、諸費用や返金される保証料も考慮したい。
厳密に言えば、銀行は事前審査の承認の有無まで気にしないだろう。借り換えを検討しているフリだけでも、話を進めることは可能だ。
ただし、銀行員は借換予定の住宅ローンを調べる。もしも、借換予定にあげた住宅ローンとあなたの信用力がバランスしていなければ、「フリ」を見抜かれ交渉は不調に終わるだろう。
分相応の借り換え先や金利を即答できない方は、ちゃんと事前審査で承認を得ておくほうが安心だ。もしくは、モゲチェック等のサービスを利用して、調査しておこう。
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金利だけでなく、諸費用や返金される保証料も考慮しよう
ほとんどの場合、金利引き下げ交渉では借り換えほど金利を下げてもらえない。しかし、借り換えには高額の諸費用がかかるので、それも考慮して検討したい。
なお、借り換えの場合は、現在借りている住宅ローンの残債を一括返済したときに保証料を戻してくれるケースがある。これを忘れずに「借り換えのメリット」として考慮しておこう。
一方、借り換えでは、総返済額が減るとしても「損益分岐点が20年後」のようなケースもある。それまでに住み替える可能性が高い方は、金利引き下げのほうがよいだろう。
決算や中間決算の時期を頭に入れておこう
交渉におすすめの時期をご紹介しておこう。最も交渉しやすいのは、決算前の3月。次いで、中間決算前の9月だ。
決算や中間決算の前は、多くの銀行がノルマに対する追い込みをかける。担当者は、成績を落としたくない。だから、決算や中間決算の前は交渉しやすい傾向がある。
とは言え、決算や中間決算の前なら必ずよい返事がもらえるというわけでもない。これまでお伝えしたとおり、交渉の成否には他にもさまざまな因子が影響する。
念には念を入れて詰めの一手を打つつもりで、可能なら決算前の時期を狙うとよいだろう。
まとめ:住宅ローンの借り換えは同じ銀行で不可!契約変更を検討しよう
さいごに、本稿のおさらいをしておこう。
住宅ローンの借り換えは、同じ銀行でできる?
原則的に、できない。銀行にとってデメリットしかないので、基本的に拒否される。ただし、借り換えの目的が利息負担の削減なら、代案がある。詳しくは以下をご覧いただきたい。
金利引き下げ交渉のコツは?
借り換えも検討して、具体的に進めておこう。事前審査で承認を得ておくと、あとで役に立つ。金利だけでなく、諸費用や返金される保証料も考慮しよう。詳しくは以下をご覧いただきたい。