「借りたお金は、なるべく早く返したい」は、誰もが持つ倫理観だろう。住宅ローンを借りている方も、頭の片隅にそのような気持ちがあるからか、繰り上げ返済を検討される方が多い。
一方「住宅ローンは繰り上げ返済をしないほうがいい」という意見もあり、実行すべきかどうか迷う方も多い。確かに、繰り上げ返済にむいていない人もいる。
本稿では、なぜ「繰り上げ返済はしないほうがいい」と言われるのか、その理由(デメリット)をご紹介する。繰り上げ返済のメリットや代案も解説するので、最後までご覧いただきたい。
住宅ローンは繰り上げ返済すべきか?しないほうがお得か?
繰り上げ返済は、積極的に実行すべきなのだろうか?―― 結論は「人による」だ。金利タイプや返済残高、残返済期間、あるいは価値観などを考慮して決める必要がある。
たとえば、返済残高や残りの返済期間が少ない方は、繰り上げ返済に向いていない。繰り上げ返済のデメリットによって損失を被りそうな方も、繰り上げ返済をしないほうがいいだろう。
ところで、繰り上げ返済はどういう仕組みになっているのだろうか?簡単に説明するので、前提情報として覚えておいてほしい。
繰り上げ返済とは
繰り上げ返済を実行すると、二重の削減効果を得られる。直接的に元金が減ることで、間接的に利息も減るのだ。その他にも、さまざまなメリットがある (詳しくは後述)。
一方、デメリットもあるので「繰り上げ返済はしないほうがいい」と言う意見が出てくるのだ。どんなデメリットがあるのか、詳しくご紹介していこう。
繰り上げ返済はしないほうがいい、と言われる理由(デメリット)
これから「繰り上げ返済はしないほうがいい」と言われる理由を4つご紹介する。つまり、繰り上げ返済のデメリットだ。
もしもあなたが、この4つのデメリットを受け入れられない、あるいはデメリットによって損害を被るのであれば、繰り上げ返済はしないほうが無難だろう。
- 投資機会を喪失する
- 流動性の高い資産が減る
- 団信の適用期間が短くなる
- 住宅ローン減税額が減少する
順番に解説しよう。
1.投資機会を損失する
繰り上げ返済をおこなうと、手元の資金が減る。このことは「資金を投資に回すことで得られたかもしれない利益を失った」とも考えられる。
近年、住宅ローンは超低金利で推移している。変動金利を選んだ方は、金利が年1.0%を切っているだろう。
つまり、金利が高かった時代に比べて、繰り上げ返済による利息の節約効果が薄いのだ。このようなご時世では、繰り上げ返済ではなく、資金を資産運用に回すほうがよい場合もある。
資産運用が得意な方にとって、繰り上げ返済は次善の策になる。金利以上の利回りを得られれば「やっぱり、繰り上げ返済よりお得だったね」と笑えるだろう。
ただし、資産運用はリスクをともなう。元本を割り込んだり、期待した利回りが得られなかったりするケースもある。その点は注意が必要だ。
2.流動性の高い資産が減る
先述のとおり、繰り上げ返済をおこなうことで、手元流動性(すぐに使えるお金)が減少する。その結果、急な出費に対応しにくくなる可能性がある。
これからはVUCA(先行きが不透明で将来の予測が困難な状態)の時代、と言われている。手元流動性を高めておくと、以下の備えになるだろう。
- 失業
- 転職
- 独立
- 大病
繰り上げ返済に利用した資金は、もう手元に戻せない。上述のような「もしも」に備えておきたいなら、資産は流動性の高い状態(預貯金や株式投資など)で残しておくほうがよいだろう。
また、急に大きな資金が必要になる可能性もある。車の買い換え費や子どもの学費、緊急性の高い家の修繕費などだ。もしも、手元に資金がなければ、これらの費用はローンでまかなうことになる。
しかし、カーローンや教育ローン、あるいはリフォームローンはどれも住宅ローンより金利が高い。同じ「借金」なら、住宅ローンのほうがお得だ。
できるだけ手元流動性を高めておきたい方には、繰り上げ返済は向かない。
3.団信の保障額が縮小される
民間の住宅ローンでは、団体信用生命保険(以下、団信)の加入が必須になっている。繰り上げ返済を実行すると、この団信の保障額が縮小されてしまう。
たとえば、繰り上げ返済を実行したあと、契約者の死亡等により団信の保険金が支払われたとする。恐らく、残されたご家族は「繰り上げ返済をした意味がなかった」と感じるだろう。
がんなどで余命宣告された場合は「手元資金があれば、もっと最期を豊かに過ごさせてあげられたのに」と後悔するかもしれない。タラレバではあるが、そういうリスクもあるのだ。
団体信用生命保険とは
近年、金融期間の競争の激化により、団信の適用範囲が広がっている。死亡や高度障害だけでなく、さまざまな疾患を手厚く保障する団信がある。
そのような団信に加入されている方ならなおさら、繰り上げ返済で有効期間を縮めていいのかよく考える必要があるだろう。
4.住宅ローン減税額が減少する
住宅ローン減税の適用期間中は、繰り上げ返済をおこなうと控除額が減ってしまう。なぜなら、年末時点のローン残高を基準にして控除額を計算しているからだ。
ただし、繰り上げ返済を実行すれば利息が減る。繰り上げ返済と住宅ローン控除、どちらを優先するほうがお得になるかよくシミュレーションする必要がある。
シミュレーションの結果は、金利や借入残高、収めている所得税・住民税の金額などによって変わってくる。減税額が減ったとしても、積極的に繰り上げ返済したほうがお得になる場合もある。
繰り上げ返済と借り換えの関係については、こちらの記事で紹介している。ご興味がある方は、あわせてご覧いただきたい。
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繰り上げ返済のメリットは、利息の負担を軽減できること
つづいて、繰り上げ返済のメリットをご紹介しておこう。ここでご紹介するメリットと、これまでご紹介したデメリットをてんびんにかけ、実行または見送りの判断をしたい。
繰り上げ返済には、二重の削減効果がある。以下のふたつだ。
- 直接的に元金が減る(返済残高が減る)
- 間接的に利息も減る(総返済額が減る)
じつは、繰り上げ返済にはふたつのタイプがあり、それぞれ以下のメリットも享受できる。
- 返済額軽減型:毎月の返済額が減る
- 期間短縮型:返済期間が短くなる
「返済額軽減型」返済期間はそのままで、毎月の返済額を減らす方法だ。一方「期間短縮型」は、毎月の返済額はそのままで、返済期間を短くする方法である。
利息の軽減効果は「期間短縮型」のほうが高いが、「返済額軽減型」には団信の補償期間を維持できるメリットがある。利息の軽減効果を比較してみよう。
条件は以下のとおりだ。
- 借入額:3000万円
- 金利 (固定):1.3%
- 返済期間:35年
- 返済方法:元利均等返済
- ボーナス返済:なし
この条件で、10年目に「資金300万円」を繰り上げ返済に回した場合の節約効果は以下のようになる。
繰り上げ返済 | 期間短縮型 | 返済額軽減型 |
---|---|---|
返済額/月 | 0円 | -11,367円 |
返済総額 | -1,097,370円 | -535,347円 |
返済期間 | -3年10か月 | 0年 |
上述のように節約効果の差が出る理由は、利息が「借入額、返済期間、金利」の3条件で決まるからだ。
期間短縮型は借入額と返済期間が減るので、効果が大きい。一方、返済額軽減型は借入額しか減らないので、効果が小さくなる。
また、繰り上げ返済には以下の効果もある。
- ローンから早く解放されることで、精神的な負担が軽減
- 将来の収入減少リスクに対する耐性が高まる
- 保証料を一括で支払っている場合は、一部戻ってくる
- 金利上昇リスクを軽減できる(変動金利型の場合)
このように、繰り上げ返済にはさまざまなメリットがあるので、一概に「繰り上げ返済はしないほうがいい」とは言えない。
ここで上げたメリットに重きを置きたい方は、繰り上げ返済を実行されるとよいだろう。
繰り上げ返済に適さないタイミング
繰り上げ返済に適さないタイミングは、あるのだろうか?―― じつは、繰り上げ返済は実行するタイミングによって得られる効果が大きく異なる。
繰り上げ返済は、できるだけ早い時期におこなうことで、利息の軽減効果を大きくできる。一方、ローンの残り期間が短い場合は効果が薄くなるため、相対的に繰り上げ返済に適していないと言える。
一例を見てみよう。条件は、以下のとおりだ。
- 借入額:3000万円
- 金利 (固定):1.3%
- 返済期間:35年
- 返済方法:元利均等返済
- ボーナス返済:なし
- 繰り上げ返済資金:100万円
- タイプ:期間短縮型
この条件で、繰り上げ返済を「10年目」または「20年目」または「30年目」に実行した場合の節約効果を比較してみよう。
繰り上げ返済 | 10年目 | 20年目 | 30年目 |
---|---|---|---|
返済総額 | -374,174円 | -209,876円 | -73,059円 |
返済期間 | -1年3か月 | -1年1か月 | -1年0か月 |
もうひとつ、別の視点から繰り上げ返済のタイミングを考えてみよう ――。今後、インフレ基調が続くとしたら、今は繰り上げ返済のタイミングとしてどうなのだろうか?
インフレ下では物価が上昇するため、貨幣の実質的な価値は減少する。貨幣価値が下がると、ローン返済の実質的な負担が軽くなる。固定金利のローンは、この恩恵を受けやすい。
放っておいてもローンの負担が軽くなる ―― それなら、資金をインフレに強い投資に回すほうがより有利に資産を形成できるかもしれない。
インフレ下では、所得も上がりやすくなるだろう。繰り上げ返済をせずに自己投資に資金を回す ―― というのも、ひとつの方法だ。VUCAの時代とも、マッチした作戦と言える。
とりわけ、スキルアップが収入増加に結びつきやすい業界の方は、リスキリングに資金を回すほうがよい結果になるかもしれない。労働市場での競争力が高まるだろう。
実際のところどう?住宅ローンの繰り上げ返済はしないほうがいい?
実際に繰り上げ返済をした方は、どう感じているのだろうか?SNSで見つけた意見を、いくつかご紹介しよう。
後悔した・失敗したと感じている人の声
私が唯一資産形成で後悔してることは、住宅ローンを全力で繰り上げ返済したことです。頑張って返さずにS&P500に投資してたら、今頃超富裕層でした。
出典:X (旧Twitter)
住宅ローンは完済したんだけど、今まで繰り上げ返済に充ててた金額を積み立て投資に回してたほうがよかった?と最近よく思う。軽く後悔。
出典:X (旧Twitter)
住宅ローン控除嬉しいですよね。繰り上げ返済などせずに、満額もらっておけばよかった……と、後悔しきりです。
出典:X (旧Twitter)
住宅ローンを繰り上げ返済したのだが、少し後悔している。私が亡くなったら、団信が返済してくれる。繰り上げ返済してしまうと、団信が肩代わりしてくれる額が減ってしまう。
出典:X (旧Twitter)
うちの親は住宅ローンを繰り上げ返済したあと、早く亡くなってしまった。結果論だけど、繰上げ返済なんてしなくてよかった。そうすれば、生前にもっと余裕ある生活ができただろうに。
出典:X (旧Twitter)
やはり「資産運用に回せばよかった」と後悔している方が複数おられた。団信面で後悔されている方もおられる。
繰り上げ返済をしてよかったと感じている人の声
住宅ローン控除あるのに繰り上げ返済するのもったいないと思っていたけど、計算したら繰り上げ返済するほうがお得だな。ガンガン返済するのが正解っぽいな。
出典:X (旧Twitter)
新NISAもいいけれど、もし住宅ローンがあるならば、繰り上げ返済がおすすめ。返済プランを見て利息の多さにびくりしたので、定年退職前に完済できてよかったと思う。
出典:X (旧Twitter)
子どもたちが小さいうちに繰り上げ返済を頑張っておいて本当によかったと思う。子どもたちの学費は、なんとかなりそう。住宅ローンと大学の学費が重なったら、今の給料ではカツカツだった。
出典:X (旧Twitter)
今後、住宅ローンの金利が跳ね上がるね?今年で完済しておいてよかった。繰り上げ返済、大事よ。
出典:X (旧Twitter)
繰り上げ返済をするぐらいなら投資に回したほうがいいと聞きますが、私は繰り上げ返済をしました。ローンで支払っていた分を、今は投資に回しています。
出典:X (旧Twitter)
計画的に住宅ローンを借りているつもりでも、子どもの大学進学の時期に家計が苦しくなる方が少なくない。繰り上げ返済で住宅ローンを終わらせてしまえば、家計的にも精神的にもラクだろう。
「繰り上げ返済より、投資に回すほうがよい」とよく言われるが、繰り上げ返済で生まれた余裕資金を投資に回している方がおられるようだ。なかなか賢い方法かもしれない。
住宅ローンの繰り上げ返済をしない人におすすめの代案
最後に「繰り上げ返済は、やめておこう」と考えた方に、繰り上げ返済の代替案をご紹介したい。
繰り上げ返済の最たるメリットは、利息負担を軽減できることだ。では、繰り上げ返済以外に利息の負担を減らす方法はないのだろうか?
繰り上げ返済のように「確実に利息を減らせる」とは限らないが、ふたつの方法をご紹介する。
他の金融機関の住宅ローンに借り換える
今の金融機関から金利の低い金融機関に借り換えると、利息を軽減できる場合がある。
借り換えによって金利が下がると、月々の返済額や返済総額を減額できる。金融機関によっては、団信を強化したり、リフォームローンを借り換え後の融資に合算することも可能だ。
ただし、借り換えには数十万円のコストがかかる。返済残高が多い場合は、100万円を超えることもあるだろう。つまり、条件しだいでは借り換えることで損してしまうケースもある。
たとえば、こんな方は借り換えるメリットが少ない。
- 借り換え前後の金利差が少ない
- 残返済期間が短い
- 返済残高が少ない
借り換えメリットについては、以下の記事で詳しく解説している。ご興味がある方は、あわせてご覧いただきたい。
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借り換えを検討する際は、ちゃんとお得になるかシミュレーションしておくことが大切だ。簡易的なシミュレーションは、以下の記事にあるシミュレーターで確認できるので、試してほしい。
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詳しくシミュレーションしたい方は、借り換えたい金融機関を見つけて、相談するといいだろう。
「借り換えを検討しているので、どのくらいメリットがあるかシミュレーションしてほしい」と言えば、すぐにやってくれる。
インターネット上にあるシミュレーターを使う方法もある。おすすめは、モゲチェックだ。シミュレーションや住宅ローンのランキングを、だれでも無料で利用できる。
詳しくはこちらをご覧いただきたい。
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同じ金融期間で金利を引き下げてもらう
住宅ローンを借りている金融期間と交渉して、金利を下げてもらう(契約内容変更)方法もある。うまく活用すれば、借り換えと同じく返済総額を減らせる。
契約内容の変更なら、借り換えに比べて手間が少ない。審査も簡易的であり、少ない費用で済む。一方、必ず交渉できるわけではなく、断られることもある。
金利引き下げ交渉を成功させるコツは、借り換えと同時にすすめることだ。詳しくは、以下の記事をご覧いただきたい。
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まとめ:住宅ローンの繰り上げ返済はしないほうがいい?
さいごに、本稿のおさらいをしておこう。
住宅ローンの繰り上げ返済はしないほうがいい?
人による。返済残高や返済期間が少ない方は、繰り上げ返済による利息軽効果が薄いので、資金を投資等に回すほうがいい場合もある。詳しくはこちらをご覧いただきたい。
繰り上げ返済の他に利息を減らす方法はある?
たとえば、別の金融機関に借り換えたり、同じ金融機関に金利を引き下げてもらったりすると、利息を軽減できる。ただし、必ずうまくいくとは限らない。詳しくはこちらをご覧いただきたい。