
「月桂樹は、庭に植えてはいけない?」と心配される方が少なくない。しかし、月桂樹は初心者でも育てやすく、ハーブや観賞用として人気の木だ。ぜひ、栽培に挑戦していただきたい。
ただし、月桂樹は成長が早く、剪定などの一定の管理を必要とする。特定の害虫や病気が発生しやすいところも、注意が必要だ。育てやすい木ではあるが、ある程度の予備知識が必要だろう。
本稿では、月桂樹のリスクや、その対処法を解説する。月桂樹の魅力や育て方のポイントもご紹介するので、月桂樹を植えるかどうかを判断するためのヒントにして欲しい。

月桂樹(ローリエ)は庭に植えてはいけない?

それでは、さっそく月桂樹を庭に植える際のリスクからご紹介しよう。
月桂樹は、育てやすい木だ。庭に植えても問題ない。しかし、旺盛な成長力と、病害虫の被害には注意したい。
成長が早く、大きくなるため、庭の日当たりを阻害する恐れがある
月桂樹は常緑高木であり、大きくなる特性を持つ。しかも、わりと成長が早い。とくに、豊かな土壌で育つと急速に成長し、高さが10メートルに達するケースもある。
むやみに大きくすると、他の植物やお庭の環境に悪い影響を及ぼしかねない。日当たりを阻害したり、庭のスペースを圧迫したりする恐れがあるのだ。
よって、成長の様子を見ながら適宜剪定をおこなう必要がある (詳しくは後述)。他の植物との距離を考慮して植えることも重要だ。

初めは、鉢植えで育てるのもひとつの方法だろう。根が成長するスペースを制限することで、木の高さを抑える効果が期待できる。
病害虫の被害に遭いやすく、定期的に管理と手入れが必要
月桂樹は、特定の病害虫の被害に遭いやすい。では、どんな病害虫に注意すればいいのだろうか?—— まず、《すす病》に注意が必要だろう。
すす病は月桂樹がかかりやすい病気のひとつで、葉の表面に黒い汚れのようなものが付着し、光合成を妨げる。その結果、月桂樹を弱らせたり美観を損ねたりするのだ。
すす病は、カイガラムシやアブラムシなど、植物の汁を吸う虫(吸汁性害虫)の排泄物を栄養源とするカビによって引き起こされる。だから、水でこすり洗いをすれば、ある程度落とせる。
害虫では、以下の虫に注意が必要だ。
カイガラムシ | 月桂樹にとくに多く見られる害虫。葉や茎に付着して栄養を吸う。植物の成長が阻害されたり、すす病の原因になったりする。刷毛や歯ブラシなどで、ある程度落とせる。 |
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テッポウムシ | カミキリムシの幼虫。幹や枝の内部に侵入して内側から木を食べる。テッポウムシの食害に遭うと弾丸を撃ち込んだような穴が空くため、木が弱り、枯れる原因にもなる。 |
ハマキムシ | ハマキガ科に属する蛾の幼虫の総称。葉を丸め、その中に棲みつく習性がある。食害だけでなく、葉が巻かれることで光合成の阻害や美観の悪化が起こる。 |
月桂樹の病気や害虫の対策としては、以下が有効だ。
- 剪定をおこなうことで、風通しをよくし、湿度を適切に保つ
- 定期的に葉や茎を観察し、病気や害虫の兆候を早期に発見する
- 病害虫が発生した場合は、適切な薬剤を使用して駆除する
- 食害にあった葉や、ハマキムシが丸めた葉は摘み取る
剪定や病害虫の管理も、植物を育成する楽しみのひとつだ。あなたも、手塩にかけて育ててみてはいかがだろうか。きっと、大きな愛着が湧くだろう。

月桂樹(ローリエ)を植えるべき理由4選!魅力やメリットとは

月桂樹は、魅力をたくさん持ち合わせている樹木だ。月桂樹を庭で育てるメリットを知れば、きっとあなたも育てたくなるだろう。
月桂樹の魅力を4つご紹介する。
初心者でも、比較的育てやすい(枯らしにくい)
月桂樹は、初心者でも比較的育てやすい庭木のひとつだ。その特長をご紹介しよう。
- 生育力が強い
- 萌芽力が強い
- 耐暑性が強い
- 耐寒性もそれなりにある
- 明るい日陰でも育つ
- とくに土質を選ばない
- 比較的手入れが簡単
- 地植えの場合はほぼ水やり不要
- 肥料の管理も容易
注意点は、先述のとおり、大きく成長するため剪定が必要なことだ。病害虫も気にしておきたい。
生育温度については、-8~-10度が限界とする意見が多いようだ。-8度を下回るようなら、防寒が必要だろう。
常緑性であり、四季を通じて緑の葉を楽しめる
月桂樹は常緑性の植物であり、一年を通じて緑の葉を楽しめる。月桂樹の四季の魅力をご紹介しよう。
- 春:黄白色の小さな花が咲く
- 夏:濃い緑色に成長した葉が庭を涼しげに演出
- 秋:雌株の場合は紫色の実をつける
- 冬:寒い季節でも緑を保ち、庭に彩りを与える
月桂樹が庭木として人気のある理由のひとつが、この特性だ。その美しさと実用性から、多くの家庭で愛されている。
また、月桂樹は刈り込みに耐える性質があり、形を整えやすい。生垣や目隠しとして、一年中利用できる。
芳香がよく、香料や料理の香りづけに使える
月桂樹の葉には、特有の芳香がある。乾燥した葉は、香辛料(ローリエ、ローレル)としてカレーやシチューなどの煮込み料理の香味づけに使われる。
月桂樹をうまく使うと、煮込み料理が一気に本格的になる。

月桂樹の葉や果実には「健胃・駆風・去痰・利尿」の作用もあるそうだ。
- 健胃:胃の機能を促進して元気にすること
- 駆風:胃腸内に溜まったガスを排出させること
- 去痰:のどにからむたんを取り去ること
- 利尿:尿がよく出るようにすること
また、月桂樹の実や葉のエキス、あるいは煎液は、神経痛やリウマチの治療薬にも用いられている。
また、成分の1,8-シネオールには抗菌・抗ウイルス作用があり、オイゲノールには強い殺菌力がある。風邪やウイルス性の感染、口内炎の緩和に役立つとされる。
情緒を安定させる効果も期待できるため、ポプリや入浴剤、不眠症対策のハーブピローなどにも使われる。
古代ギリシャ時代から聖樹として神聖視されている
月桂樹は「アポロン(光明・芸術・予言などの神)の聖樹」と言われ、神聖視されている。
これは、アポロンと精霊ダフネ、性愛の神エロスの物語に由来している。この物語を、簡単にご紹介しておこう。
エロスは、愛情にとりつかれる黄金の矢と、愛を嫌悪する鉛の矢を持っている。ときどき、この矢で人や神々を撃って遊んでいたが、それをアポロンにバカにされる。
怒ったエロスは、金の矢でアポロンを、鉛の矢で近くにいたダネフを撃つ。アポロンは求愛のためダネフを追い回すようになるが、ダフネは逃げ惑う。
追い詰められたダネフは、父である河の神・ペネイオスに助けを求め、姿を変えることを望む。願いを聞き入れたペネイオスは、娘を月桂樹に変える。
失意の底に沈むアポロンは「せめて私の聖樹になってほしい」と懇願する。すると、月桂樹の枝葉がアポロンの頭上に降り注ぎ冠(月桂冠)となった。
古代ギリシャの競技会(ピュティア競技祭)では、優勝者に月桂冠が授与されている。
日本でも、京都市の酒造会社が社名や酒名に「月桂冠」を使っている。「京都・伏見の酒をナンバーワンにしてみせる」という大きな志をこめて、11代目当主が命名したそうだ。
月桂樹の種名「nobilis」にも《高貴》や《気品ある》という意味がある。このように、月桂樹は栄誉と威厳のある木なのだ。


月桂樹(ローリエ)の植え方・育て方

月桂樹を育ててみたくなった方のために、植え方や育て方をご紹介しよう。剪定のコツも解説する。
月桂樹は、初心者でも育てやすい樹木だ。ポイントを押さえて、挑戦してみよう。
月桂樹を植えるのに適した環境
まずは、月桂樹を植えるのに適した環境をご紹介する。
気候
月桂樹は、地中海の沿岸地域が原産だ。だから、地中海の気候に適応しており、夏の高温や乾燥に強い特性を持っている。日本の夏でも、生育が旺盛だ。
耐寒性もあるが、-8℃以下になるようなら防寒対策を施すことが推奨される。
日当たり
月桂樹は日当たりのよい場所を好むものの、明るい日陰でも育つ。半日陰の環境でも、問題なく成長するだろう。だから、日当たりのよい場所を他の植物に譲ってやるとよい。
ただし、日光が不足しすぎると葉が弱り、成長が鈍化する。葉がよく散るようなら、日照不足を疑ってみてほしい。日当たりのよい場所に植えることで、より元気に成長してくれるだろう。
土壌
月桂樹は、水はけのよい場所がお気に入りだ。土質はとくに選ばないため、さまざまな土壌で育てられるが、有機物の多い土ならよく生育する。
一般的には、赤玉土と腐葉土を混ぜた土がよく用いられる。そこに堆肥を加えることで、さらに良好な土壌環境となるだろう。
月桂樹の植え方と、植える際の注意点
月桂樹の植え付けの適期は、春(3~5月)と秋(10~11月)だ。この時期は、根が定着しやすい。
手順は、以下のとおりである。
STEP.1
植え付け場所に根鉢の2倍サイズ(深さ・直径)の穴を掘る。
STEP.2
掘り起こした庭土に緩効性肥料を混ぜ込み、半分ほど穴に埋め戻す。
STEP.3
苗木の根を軽くほぐし、植え穴に入れて、残っている用土で植え付ける。
STEP.4
植え付け後は、根と土が密着するようにたっぷりと水をやる。
なお、月桂樹は移植が苦手だ。根が傷つきやすく、水や養分を吸い上げる力が衰えてしまう。とりわけ、成長した株の移植には注意したい。
月桂樹の育て方(水やり、施肥)のポイント
月桂樹の水やりと施肥のポイントをご紹介しよう。
水やり
地植えの月桂樹は、根付くまで、土の表面が乾いたらたっぷり水を与えるとよい。
植えつけから2年程度経過したら、根がしっかりと張っているため、特別な水やりは不要になる。水分補給は、降雨に任せてOKだ。
ただし、乾燥状態が続く場合にのみ、数日に一度水やりをしてあげよう。
肥料
月桂樹は生育が早いため、年に1~2回ほど緩効性肥料を与えるか、有機質肥料を株元周辺に埋めるとよい。
まず大切なのが、寒肥だ。1~2月ごろに、春の成長期に必要な栄養を供給してあげよう。
夏にも与える場合は、8月頃がよいだろう。植物の成長を促進できる。
月桂樹を小さく育てるには剪定が大切
先述のとおり、月桂樹は高さが10メートルに達する個体もある。意図せず巨木にしないためには、剪定が極めて重要だ。
剪定時期は、成長をコントロールする場合は、新芽が伸びたあとの6月ごろがよいだろう。混み合った枝葉を減らし、内部に日光や風が入るようにするとよい。
10月ごろ、樹形を整えるために軽い切り詰めをおこなう。小枝を生かすように、先端を切り捨てる。葉を数枚残すのがポイントだ。

ちなみに、月桂樹は枝が真上に伸びやすい。だから、比較的樹形が乱れにくい木である。
剪定では、植えている場所の広さに合わせて、大きさを調整していくとよいだろう。さらに、日当たりや風通しをよくするために、不要な枝を間引いておこう。
以下の枝葉、つけ根から切り取るとよい。
- 他の枝にからむ《からみ枝》
- 他の枝の逆向きに生える《逆さ枝》
- 樹冠の内部にある弱小な《ふところ枝》
- 勢いがあり長く真っすぐに伸びる《徒長枝》
- 幹から新たに直接伸び出した《胴吹き枝》
高さを抑えたいときは、樹冠の枝分かれしているところの上で主幹を切る。
ヒコバエ(樹木の根元から生えてくる若芽)がよく生えるので、基本的にすべて切る。ヒコバエを生かして本株立ちにする場合は、主幹を切る。

月桂樹(ローリエ)のよくある疑問

つづいて、月桂樹のよくある疑問をご紹介する。
月桂樹は挿し木で増やせる?
月桂樹は、挿し木で増やせる。若くて花着きのよい株が成功しやすい。6~8月ごろ、その年に伸びた枝を採取し、挿し穂にするとよいだろう。
手順は以下のとおりだ。
STEP.1
新梢をハサミで切る (15cm前後)。
STEP.2
上部の葉を4~5枚残して、下部の葉は取り除く。
STEP.3
切り口を1~2時間ほど水に浸す。
STEP.4
発根促進剤を切り口につける。
STEP.5
用土を鉢などに入れて水をやる。
STEP.6
切った枝を挿し込み、軽く押さえて固定。
なお、新梢を切る際、切り口を斜めにカットすると根が出やすくなる。
夏のあいだは、直射日光を避けて保管するとよいだろう。秋以降、弱い太陽光や外気に当て始め、徐々に通常管理に移行していこう。
月桂樹は鉢植えでも育てられる?
月桂樹は、鉢植えでも育てられる植物だ。
成長が早いので、最初は根鉢よりもひと回りからふた回り大きな鉢を選ぶとよいだろう。根がしっかりと育つスペースを確保しよう。
その他のポイントをご紹介する。
用土
鉢植えでは、水はけがよく、肥沃な土を使用したい。赤玉土と腐葉土を6:4の割合で混ぜた土、あるいは市販の有機質が豊富な培養土を使うとよいだろう。
水やり
鉢植えの月桂樹は、土の表面が乾いたらたっぷりと水を与えよう。夏の暑い時期には、朝と夕方の2回水やりをおこなうこともある。
施肥
3月ごろに、緩効性の固形肥料を株元に置くとよい。春の成長期に必要な栄養を供給できる。8月ごろに施肥をおこなうことで、さらに成長を促進できるだろう。
どんどん生長させる必要がない場合は、肥料なしで育ててみるのもよい。その場合は、しっかり光合成をおこなえるように採光時間をコントロールしよう。
植え替え
鉢全体に根が回ったり、水はけが悪くなったりしたら、ひと回り大きな鉢に植え替えよう。作業は、5月ごろがよいだろう。
月桂樹は伸びた根を傷つけると弱りやすいため、植え替えをおこなう際は注意したい。
月桂樹は風水的に庭木としてどう?
月桂樹は、風水や家相的に「よい」とされる場合が多い樹木だ。風水では樹木を陽木と陰木に分けるが、月桂樹は陽木とされる。
家相では、実のなる常緑高木を植える方位は北西がよいとされる。月桂樹も、北西に植えるのがよいとする意見がある。
ただし、風水や家相の解釈は人によって見方が違う。ほどほどに参考にするのがよいのではないだろうか。


まとめ:月桂樹(ローリエ)は庭に植えてはいけないと言われる理由
さいごに、本稿のおさらいをしておこう。
月桂樹(ローリエ)は庭に植えてはいけない?
月桂樹を庭に植えても問題ない。むしろ、園芸初心者にもお勧めできる庭木だ。四季折々の表情や、ハーブとしての実用性を楽しんでほしい。詳しくはこちらをご覧いただきたい。
月桂樹(ローリエ)を植える際の注意点は?
月桂樹は成長が早く、大きく育つ可能性のある樹木だ。また、特定の病害虫被害に遭いやすい面もある。剪定や、定期的な管理をおこないたい。詳しくはこちらをご覧いただきたい。